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大前研一「ビジネス新大陸」の歩き方

「検索するだけで考えない大学生」を作り上げる日本の“時代遅れ教育”

 私に言わせれば、記述式で思考力を問うなら、それ自体を採点するのではなく、答案からその人の考え方を酌み取って、さらに突っ込んだ質問をぶつけ、人間性を深掘りするという手間暇をかけなければ、導入する意味がないのである。

 最近、「ネット検索で調べるだけで考えない大学生」が問題になっている。たとえば、デジタル教科書に関する講演会で、東京大学大学院の酒井邦嘉教授は「自分で考えて咀嚼する前に調べてしまう。考えようとしない。考えるのはバカバカしい。書いてあるモノを探してくればいいんだと。それが学習なんだと勘違いしている」(東京新聞6月15日付)と苦言を呈している。

 だが、これは大学生に問題があるのではない。そういう大学生をつくってきた試験、学校、教師、文科省に問題があるのだ。

 試験や教師の質問が「正解」を求めるから、生徒・学生は手っ取り早く答えを見つけるためにスマホで検索して調べるわけで、その結果として考えなくなるのは必然である。つまり、スマホがあれば答えがわかる質問で、合否や成績を判定するというやり方自体が間違いなのだ。

 日本は明治維新以来、欧米に“追いつき追い越せ”で、答えを求める教育を続けてきた。従来の延長線上で答えが見えていた時代はそれでもよかったが、今は世界中どこでも答えが見えない時代である。実際、世の中に出たら、答えが○か×かになることはほとんどない。

 にもかかわらず、日本の教育は相変わらず工業化社会時代の○×式で「正解」を答えさせようとしている。情報化社会の21世紀に活躍できる有能な人材は、そういう時代遅れの教育からは生まれてこない。その根本的な間違いに文科省はまだ気づいていないのだ。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『大前研一 世界の潮流2021~22』(プレジデント社)など著書多数。

※週刊ポスト2021年8月20日号

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