中川淳一郎のビールと仕事がある幸せ

フリーランスの悲哀と現実 仕事の契約書があれば安心というわけではない

 こうなることがフリーの側も分かっているから、契約書を締結することが憚られるのです。仕事がなくなった場合は「えっ!?」と驚いた様子は見せつつも「じゃあ、次回は是非お願いしますね」と言わざるを得ない。これが大多数の下っ端フリーランスの置かれた状況なのです。

 私自身も某大手出版社の編集者から書籍の執筆依頼が来て、最初の3章(約5万字)を書いたところで一旦提出したところ、数日後に同社に来るよう伝えられました。応接室に通されると、彼はいきなり重厚なソファーから立ち上がり、窓の近くに立ちます。そして苦しそうな表情を浮かべ、「中川さん、実はこの企画、僕は社内で通していなかったんですよ。ですので、今回はナシと言うことでお願いします」と言います。

 出版契約書の場合、本を書き終わった段階で部数会議を経て交わすのが通例となっています。いつ本を書き終わるかわからなければ、出版する日も決められないし、場合によっては文量が大きく変わってページ数だって当初の予定から増減する。それがわからなければ本の価格も決まらないし、印税だって変わってくる。このように出版企画は、非常に不確定要素が多いという面があります。

 とはいえ、社内の出版会議でGOが出たか出なかったかというのは分かっているわけで、この場合、GOが出ていないのに私に書かせた彼が悪い。

 しかし、ここでどれだけ文句を言ってもカネがもらえるワケもありません。私としては「あ~あ、これまでに使った時間返してくれ。あとはせめて10万円でもいいからくれよ」と思うものも、相手もない袖は振れない。これが現実です。

契約書の手続きが複雑化していくと手に負えない

 よっぽどフリーランスとして売れている場合を除いて、発注主が圧倒的に力が強いのは間違いありません。かといって契約書を求めると面倒なヤツだと思われてしまう。だからフリーの世界では口約束が横行するのではないでしょうか。

 冒頭で紹介した読売新聞の記事では、「業務発注時に契約書面の作成を義務付ける事業者の対象を拡大する方針」で、「来年の通常国会に関連法案を提出する方向で調整している」と書かれています。たしかにこの法案が通過したらありがたい、と思うフリーの方も多いでしょうが、前述したように契約書を締結したとしても、その後の仕事が円滑に進むわけではない。さらには、フリーにとっては面倒な手続きが増えるというデメリットもあります。

 私がその典型ではありますが、フリーになる人の中には、そもそも会社員が日々こなしているような煩雑な手続きの類が苦手だという人も少なくありません。ある程度、信頼関係を築けた人と口約束で決まる仕事が快適でもあるのです。

 私なんかは、毎度契約書にハンコを押して、郵送する、それさえ面倒くさいのです。最近はPDFでもOKというケースや電子契約書のケースも増えていますが、それを細かく確認するのも面倒。あと、自分が受けた仕事をさらに別のフリーに発注するケースもありますが、そうした際に契約書の手続きがどんどん複雑化していくと、もう手に負えなくなる。

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