大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

大前研一氏が考察する「第四の波」 サイバー&AI革命が生んだ雇用はいずれ淘汰される

次の革命でも雇用は激減

 すでに世界では「第四の波」の「サイバー&AI革命」が始まっている。その象徴がアメリカのGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)や中国のBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)である。これらの巨大IT企業が「第四の波」の最先端で巨大な富を独占し、日本企業はそれについていくことができずにいる。実際、フォースタートアップスの「2022年世界時価総額ランキング」によると、世界のトップ50社の国別分布は、アメリカが34社、中国が5社で、日本は1社(トヨタ自動車)だけである。

 そして「第四の波」も、前半の今は雇用を大量に創出している。アマゾンをはじめとするEコマースの物流(倉庫内作業や配送)スタッフ、ウーバーのドライバーやウーバーイーツの配達員などである。アマゾンは、アメリカ国内の物流拠点で働く75万人を対象に大学授業料を全額負担する取り組みまで始めて従業員を確保しようとしている。

 だが、後半はこれまでの3つの波と同じく、人間が淘汰されていくだろう。たとえば、ウーバーやウーバーイーツは車が自動運転レベル5(完全自動運転)になったら、ドライバーや配達員は用無しになる。アマゾンも、さらに倉庫内作業の自動化が進めば、ピッキング要員が大幅削減される。

 すでに人間の淘汰が始まった分野もある。中国の「平安保険」が手がける「平安グッドドクター」という遠隔診療サービスは、1年365日24時間いつでも、医師がスマホのチャットや通話などで診察し、病院の予約や薬の宅配もしてくれる。今後はそれがAI化されて電子診療になり、大半の医師は不要になるだろう。

 あるいは、世界で最もデジタル化が進んでいる「電子国家」エストニアでは、1つの電子銀行ですべての決済や所得税申告などができるため、税理士や会計士という職業がなくなった。学校もオンライン一斉授業なら、教えるのが上手な先生が1人いれば、その教科に他の先生は必要なくなる。

 つまり、有名大学を出て大手企業に入ったり、国家資格を取得してプロフェッショナルと呼ばれる職業に就いたりすれば安定した生活が手に入る、という従来の“勝ち馬方程式”は通用しなくなるのだ。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2022~23』(プレジデント社)。ほかに小学館新書『稼ぎ続ける力 「定年消滅」時代の新しい仕事論』等、著書多数。

※週刊ポスト2022年3月4日号

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