大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

米アップル、アマゾンで「最低時給3900円」要求 日本にも伝播必至の賃上げの波とその先

 私は、この3つの波における雇用の側面に着目した。いずれの波も前半は雇用を大量に創出したが、後半はそれが削られたのである。それは「第四の波」も同じであり、前半の入り口の今は雇用を大量に創出しているが、後半は人間が淘汰されていく、と指摘した。

 典型例は配車サービスのウーバーや料理宅配のウーバーイーツだ。世界中でウーバーのドライバーやウーバーイーツの配達員が増加しているが、車の自動運転レベル5(完全自動運転)が実現したら、ドライバーも配達員も用無しになる。だから同社は彼らを正社員として固定化せず、(時給が高くても)個人事業主として契約しているのだ。

 アマゾンをはじめとするEコマースの物流倉庫のスタッフも、作業の自動化がさらに進めば、ピッキング・パッケージング要員は大幅に削減される。また、自動運転時代になったら、今は人手不足が深刻な宅配便のドライバーも不要になる。

 日本の場合、最低賃金の全国平均時給は930円(2021年度)でしかないが、時給の上昇は国際的に伝播するので、これから徐々に上がっていくだろう。

 しかし、たとえ時給がアメリカ並みに上がったとしても、喜んでばかりはいられない。時代が進み、「第四の波」が後半に入ると、前半に創出された仕事の大半はロボットやAIに取って代わられ、なくなってしまうのだ。

 すでに銀行をはじめとするかつての就職人気上位企業は、「第三の波」で従来の仕事がなくなって人員削減を余儀なくされ、さらに「第四の波」によってそれが加速している。そういう中で、どうすれば生き残っていくことができるのか?

 20世紀は仕事や会社を“パッケージ”で選ぶ時代だったが、21世紀は“パッケージ”は関係ない。大企業や公務員などの「看板」ではなく、自分で仕事や事業をつくる時代=中身の時代になっている。また、それらの仕事の多くはスマホ1つで付加価値をつけることが可能になっている。「第四の波」に飲み込まれて溺れないためには、その波に乗れるスキルを身につけ、中身を磨かねばならないのだ。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『経済参謀 日本人の給料を上げる最後の処方箋』(小学館刊)等、著書多数。

※週刊ポスト2022年6月10・17日号

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