中川淳一郎のビールと仕事がある幸せ

転職時に万感の思いを込めて…「オッサンの“卒業”報告」はなぜ痛々しく見えるのか

 締めの文章は、「53歳からの新たなチャレンジですが、これからさらに学びがあることでしょうし、成長したいです。そして、これまでお世話になった皆様には篤く御礼申し上げるとともに、これからも叱咤激励のほどよろしくお願いいたします」などと書きます。しかし、年下からすれば「あのぉ…、あなたの方が私よりも経験豊かなので、これ以上学ばないで今までのキャリアを活かせばいいのではないでしょうか。叱咤激励なんてできませんよ……」と思ってしまうのです。もちろん、その年からでも新たな職場で学ぶことはあるのでしょうが、「わざわざ『学び』なんて書かなくても……」と感じるのです。

 これらをこの数年間、何度も見てきました。とにかく若者の「退職エントリー」と比べてムズムズする理由を考えたのですが、なんとなく定年退職後の男性が自費出版で「我が激動の65年間の半生」といった自伝を出したもののように感じられるからかな、と思いました。

 さらに、53歳などであれば、その人がそれまで勤めていた会社での仕事ぶりも知られています。なかには出世できなかった人もいるでしょう。そうした人の場合、会社に居づらくなったため転職をしたことは明らかなのに、「新たなるチャレンジ」などと書かれてしまうと「オッサン、無理しないでいいですよ……」と言いたくなるのです。

 というわけで、中高年になった場合の「卒業報告」は痛々しくなりがちなので、報告する場合は簡潔に、感傷的にならないようにした方がいいと思います。

【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『よくも言ってくれたよな』(新潮新書)。

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