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18才で茨城から上京したオバ記者「都会が素晴らしいのは貧乏する自由があること」

東京には“人目”がない

 だけど、どんな緊張もそう長く続かないんだよね。常磐線が日暮里に近づくにつれて、電車の中から手が届くんじゃないかというほどの距離で、生活している人の姿が見えたのよ。何もない畳の部屋にテレビがひとつ。そこにステテコ姿の男の人が頭を手で支えて寝転んでいたの。

「いいなぁ~」と口に出して言ったことはないけれど、私が望む暮らしが見えた気がしたんだよね。

 それをハッキリと自覚したのは、18才で上京してしばらく経ってからよ。何がいいって、東京には“人目”がない。そりゃあ、働くからには暮らしを向上させる努力もするし、欲しいものは買いたいよ。でもそれとは別に、田舎者にとって都会が素晴らしいのは、貧乏する自由があることなんだよね。

 今日食べるご飯がなくても私だけのことで、人からとやかく言われることがない。どんな服を着ていようが、何年、同じ格好でフラフラしようが私の勝手。これを天国と言わずして何と言う。成り上がりというけれど、そんなに気張らなくてもいいじゃん。適当に都会を泳いでいれば。

 で、もし田舎で同じことをしたらどうなるか。田舎の貧乏人の娘の私でも、親の様子を見ていれば冠婚葬祭の義理を欠くのは何よりあってはならないこと、というのがイヤというほどわかる。義理、つまりお金のやり取りだよね。

 それだけならまだ解決がつくけれど、田舎ならではのヒエラルキー。これがわが家のような最下層の職人くずれの家に生まれると、どうにもならないんだわ。

 その価値観の中で必死に働いて、先代より少しでもいい暮らしをするか? それもひとつの道だとは思うけれど、私はイヤ。幸い、大工になった年子の弟が家を継ぐ気まんまんで、長男風を吹かしまくっている。よし、逃げろ!

 その逃げた家に、私は45年ぶりにがっつり帰って母親の介護をした。年をとると田舎のよさがわかるという。そうかもしれない。現にリモートワークでどこにいてもいいいま、気持ちの半分くらいは田舎に向いているんだよね。

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