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殺人犯が「お金」で死刑免除になる? 日本人には理解しにくい「イランの死刑制度」を考える

イランの抗議デモは、当初、女性が主体だった(AFP=時事)

イランの抗議デモは、当初、女性が主体だった(AFP=時事)

 ノルウェーに拠点を置く人権団体「イラン・ヒューマン・ライツ」の集計によれば、イランにおける死刑執行数は2020年の少なくとも267人から年、2021年には333人、2022年には504と急増した(AFP通信2022年12月6日付〈イラン、今年の死刑執行500人超に急増〉より)。昨年は1日に1人以上が死刑になっている計算である。

殺人犯が死刑を免れる根拠

 今回のデモ参加者のなかには、逮捕から死刑判決と死刑執行までが1か月程度のケースもあり、あまりに速すぎる。人権が蔑ろにされること甚だしいと感じるが、一方では死刑判決が下されてから10年以上も執行されない例や、死刑が免除された例などもある。

 たとえば今年の1月8日、『クーリエ・ジャポン』が配信したイランの死刑制度に関する記事では、殺人罪で死刑判決を受けた息子を救うべく、被害者遺族と“交渉”した男性の姿が描かれている(2023年1月8日付〈被害者遺族が殺人犯の処刑・免罪を決めるイランの「悲しき死刑制度」 刑執行への立ち合いや絞首刑の手伝いをすることも〉より)。

 記事によると、地方に住むラーマタラーという男性は、もう何か月も金策に走り回っていた。彼の息子が喧嘩のすえに相手を殺害。死刑判決を受けはしたが、イスラム法のキサース(同害報復刑)だったため、「目には目を」の原理に基づき、死刑を回避する方策があった。被害者遺族の同意を得られたなら、「血の対価」たる賠償金を支払うことで、被告人は死刑を免れることができるのである。

 ラーマタラーは何年にもわたる交渉の末、被害者遺族から同意を得ることに成功。だが、親類縁者からの援助だけでは、償い金の額にはとうてい足りない。そのため、なりふり構わず、村から村へと訪ね回って寄付を募っているのだという。ラーマタラーから話を聞いた写真家は、それを「絶望的な活動」という言葉で表現している。

 大方の日本人には理解不能の制度だが、それは近代的な国法とイスラム法および慣習法が同居するイスラム国家ならではの事情による。死刑を賠償金で代替させることの根拠は、第一の聖典『コーラン』の第4章92節にある。以下、宗教法人日本ムスリム協会編纂の『日亜対訳注解 聖クルアーン』から引用する。

〈信者は信者を殺害してはならない。過失の場合は別であるにしても。/過失で信者を殺した者は、1名の信者の奴隷を解放し、且つ(被害者の)家族に対し血の代償を支払え、だがかれらが見逃す場合は別である…(一部省略)…。/資力のない者は、アッラーからの罪の償いに続けて2ヶ月の斎戒をしなさい〉

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