キャリア

『定年後』著者・楠木新さんに「70代で終活を考えるのは時期尚早」と思わせた出来事

ライフ&キャリア研究家の楠木新さん(撮影/イワモトアキト)

ライフ&キャリア研究家の楠木新さん(撮影/イワモトアキト)

 エンディングノートが登場し、「終活」がブームとなってから10年余り。人生100年時代の晩年をどう過ごすかの悩みは尽きない。しかし、『定年後』などの著書があるライフ&キャリア研究家の楠木新さん(68歳)は、「70代で終活を考えるのは時期尚早」と考えているという。新著『75歳からの生き方ノート』を上梓した楠木さんに、その真意を聞いた。

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 コロナ禍の前に、新聞社主催の終活フェアで講演したことがあります。百貨店の会場に到着した時には、広い場所に人がひしめき合っていました。終活という割には、にぎやかで明るい雰囲気だったのが意外でした。

 葬祭関係業者、遺言や相続の相談所、老人向け施設の案内、保険代理店、旅行会社などの各ブースでは来場者にいろいろと説明していました。なかには棺桶に入るコーナーがあり、自分の葬儀の際に使う写真についてレクチャーを受けている人もいました。

 講演は70代中心の参加者が真剣に耳を傾けてくれたので気持ち良く話すことができました。しかし、目の前で聞いている人たちの顔を見て確信したことがあります。この会場に来ている人たちは本気で終活の準備をしたいわけではない。むしろ誰もが残り少なくなる人生を前向きに生きたいと願っているのだということです。

 そう考えれば、会場の明るい雰囲気も、棺桶に入った人の笑顔や葬儀に使う写真について楽しく語り合っている姿にも合点がいきました。ブースで提供しているサービスと来場者が求めているものとの間にはギャップがあると感じました。彼らが本当に望んでいるのは終活ではなく、70代以降の人生を充実して過ごせるサービスなのでしょう。

 75歳以上の高齢者が自ら死を選択し、それを国が支援する制度が日本で実施されるという内容の映画『PLAN 75』が2022年6月に公開されました。日本の高齢化社会に生じる諸問題の解決策として実行されるという想定です。主人公は名優・倍賞千恵子さん。私の地元、神戸にある映画館は、70代半ばの人たちで満員でした。この映画には安楽死の問題が背景にあります。

 映画のエンドロールを見ながら、私は75歳で安楽死は早すぎると思いました。「他の人はどのように感じたのか?」が気になって、映画館から次々と出てくる人たちを観察してみても、何か十分に納得していない表情の人が多かったのです。やはり彼らや彼女たちが望んでいるのは、生死の選択ではなく、次のライフステージに臨む新たなヒントだと思いました。先ほどの終活セミナーと同様なことを感じたのです。

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