質問内容が「事前通告」ゆえに国会の論戦は“予定調和”になってしまう(イラスト/井川泰年)
2025年度予算案が成立した。経営コンサルタントの大前研一氏は、国会で予算成立に向けて右往左往する石破政権を見て「実にふしだらで不埒な国会運営」と断じる。大前氏はいまの国会にどんな問題があると考えるのか、企業経営者としての視点も交えながら指摘する。
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ようやく国会で2025年度予算案が成立した。石破茂政権が衆議院で議席の過半数を持たない少数与党のため審議が空転し、衆議院で可決した予算案が参議院で修正され、衆議院で再可決するという憲政史上初のドタバタ劇もあった。
この間の退屈な国会審議をNHKは延々と中継していたが、視聴者は誰しも「こんな議論に意味があるのか」と思ったはずで、私に言わせれば、国会は緊張感のない“ダメ会議”“ムダ会議”の典型にほかならない。
その理由は、質問内容が「事前通告」だからである。国会議員が首相や閣僚に質問する際は「議論を深めるため」として、事前に政府側へ質問内容を通告する。
通告は「土日祝日を除く質疑2日前の正午まで」とする与野党の申し合わせがあり、遅くとも前日の業務時間内(18時15分)までに通告することが慣例になっているそうだが、国会議員の大半はそれを守っていない。このため、各省庁の官僚は直前に届いた質問内容に対する答弁案を短時間で作成しなければならないので、未明まで残業を強いられる状況になっている。
しかも、その答弁案に漏れがあったり、想定外の追加質問があったりすると、閣僚は答弁に窮してしまい、後ろに控えている官僚にこそこそと“答え”を教えてもらっている。
つまり、国会は「カンニングあり」の会議なのである。学校の試験ではカンニングを禁止しておきながら、国会ではカンニングが当たり前になっているのだ。それゆえ国会の論戦は“予定調和”になって、全く緊迫感がないのである。
一方、たとえば日本が明治時代に議院内閣制の参考にしたイギリスでは、国会で議員が首相に質問する場合、原則として事前通告する必要はない。だから想定外の質問が次々と飛び出し、それに対して首相はカンニングなしで答えねばならないので、質疑応答は非常に緊迫感がある。のんべんだらりとした日本の国会審議とは雲泥の差だ。答弁を官僚に頼り、想定外の質問に臨機応変に対応できない日本の政治家は、あまりにも勉強不足・力不足だと思う。
そもそも、いま国会で真っ先に議論すべきは教育改革である。21世紀は「答えがない時代」であり、その中でどうやって自分なりの答えを見いだすかという教育をすべきなのに、日本の学校は文部科学省の学習指導要領に従って、未だに20世紀の工業化社会時代の「答えありき」の知識偏重教育を続けている。