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トヨタは「深化と探索」、ソニー「大型投資型事業が大黒柱に?」…有力企業トップ交代の狙いを読み解く

トヨタ自動車では豊田章男氏(右)から佐藤恒治(左)にバトンが渡される。14年ぶりの社長交代となる(写真/共同通信社)

トヨタ自動車では豊田章男氏(右)から佐藤恒治(左)にバトンが渡される。14年ぶりの社長交代となる(写真/共同通信社)

 世界的なインフレやロシアによるウクライナ侵攻、さらには米シリコンバレー銀行の破綻に端を発した金融不安などが重なって先行きが不透明ななか、新年度は日本を代表する大企業で“トップ交代”が予定されている。なかには驚きを持って迎えられた人事もあったが、新体制下ではどのような取り組みが期待されるのか。経営者論を専門とする有識者に解説してもらった。

 14年ぶりの社長交代となるのが、販売台数世界トップを誇る自動車メーカーであるトヨタ自動車だ。4月1日付で現・代表取締役社長である豊田章男氏が代表権のある会長に就任し、佐藤恒治執行役員が社長兼最高経営責任者(CEO)へと昇格する。2月13日に開かれた同社の「新体制発表会見」で佐藤氏は、4月以降の体制で目指すこととして「モビリティ・カンパニーへの変革」を挙げると同時に「EV(電気自動車)ファースト」という言葉を口にした。

 新体制発表会見の直前にあたる2月9日に発表された同社の2022年4~12月期の連結決算では、売上高27兆4640億円で同期間として過去最高を更新したものの、最終利益は1兆8990億円で前年同期比18%減の数字となった。2023年3月期の連結業績予想でも最終利益は2兆3600億円で前期比17%減の見通しだ。資材高騰などが収益を圧迫していることに加え、自動車業界は「100年に一度の大変革の時代」を迎えている。

 3月25日には欧州連合(EU)がこれまでに掲げていた方針を大きく転換。2035年以降に「エンジン車の新車販売禁止」を打ち出していたが、環境に配慮した合成燃料を使うエンジン車は認めると発表した。これまで「EVシフト」が課題とされてきたトヨタだが、むしろ、トヨタのお家芸であるHV(ハイブリッド車)やPHV(プラグインハイブリッド車)だけでなく、水素自動車、FCV(燃料電池車)など、多様な選択肢を展開する同社の戦略に追い風ともなり得る環境変化だ。経営環境が刻々と変わるなか、社長を佐藤氏へスイッチした狙いはどこにあるのか。経営学者(神戸大学博士、流通科学大学特任教授)で経営評論家でもある長田貴仁氏が語る。

「自動車業界全体で事業方針・構造の改革が急務となるなか、現在のトヨタに必要とされるのは、自動車だけでなく、佐藤氏が目標に掲げたモビリティ・カンパニーとしての新技術基盤の構築です。佐藤氏はカローラやプリウスといった主力車種の部品開発を担当し、2005年に高級車部門『レクサス』の開発チームに異動後はレクサスインターナショナルのプレジデントやスポーツカーブランド『GR』の責任者を務めました。いわば生粋の“技術者”です。技術面に精通した佐藤氏をトップに据えることで、近年注目されているタッシュマン&オライリーの『両利きの経営』における既存事業(自動車を中心とするモビリティ)の『深化』を推進しようとしています。そして、豊田章男氏は代表権を持つ会長となることで、グループ全体をマクロの視点から見つつ、新規事業を『探索』し、それを軌道に乗せようとしているのでしょう。目標は、豊田家の家訓である『一代一業』の実現です。豊田氏は新社長交代発表の際、『私はどこまでいってもクルマ屋。クルマ屋を超えられない。それが私の限界』と発言しましたが、ここで言うクルマとは『既存の車』なのです。『既存の車』とは異なる競争力に富んだ新事業を起こし、持続的成長を遂げなければならない、という意図が、この発言に込められています。だから、自動車事業に関心を示さなくなった、と捉えるのは誤解です」

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