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中野剛志氏が断言「日本は財政破綻しない。増税の必要もない」 その理由を「正しい貨幣論」から読み解く

『どうする財源――貨幣論で読み解く税と財政の仕組み』(祥伝社新書)

『どうする財源――貨幣論で読み解く税と財政の仕組み』(祥伝社新書)

国債が海外で保有される問題はない

――防衛力の強化となると、大量の兵器を調達することになります。おそらく、同盟国のアメリカから兵器を購入することになるでしょうが、そうなると経常収支は赤字になり、海外に流出した円によって日本国債が買われるので、日本国債の海外保有比率が高まるかもしれません。これは、問題になるでしょうか?

中野:まず、経常収支が赤字になり、日本国債が海外で保有されることで、政府に資金的な問題が生じるかと言えば、それはありません。

 海外の金融機関などは、円を得ても自国内では使えないため、それを運用するために日本の金融資産を購入し、とりわけ安全資産である日本国債を保有するにすぎません。この場合、日本国債を保有する必要があるのは、海外の金融機関です。海外の金融機関に国債を買ってもらわなければならない理由は、日本政府にはありません。

 海外の金融機関が多くの日本国債を保有すると、もし日本財政の信認が失われて、日本国債を一斉に売りに出したら、金利が暴騰して大変なことになる。そう主張する論者は、非常に多いです。しかし、日本国債売りで金利が上昇するのが困るのであれば、日本銀行が買えばよいでしょう。それだけの話です。逆に言えば、日本国債を投げ売りしたところで、日銀が買えば暴落しないので、投げ売りした金融機関が損をするだけです。

 2010年代、ギリシャの財政が危機に陥った際、ヘッジファンドが「次は、膨大な借金を抱えている日本が財政破綻するはずだ」と考え、日本国債の空売りを仕掛けて一儲けしようとして、失敗に終わりました。市場アナリストの豊島逸夫氏は、次のように述べています。

「ヘッジファンドには日本国債の空売りを仕掛けて失敗を繰り返した苦い経験がある。日本国債トレードは『ウィドウ・メーカー(寡婦製造)トレード』などと呼ばれたものだ。『もう日本国債にはこりごり』と今回大損したヘッジファンドの関係者はぼやく。教訓として『日銀には逆らうな』が合言葉になりそうだ」(ブログ「豊島逸夫の手帖」2018年8月1日より)

 したがって、経常収支赤字によって、日本国債の海外保有率が高まることで、日本政府が資金的な制約を受けるということはないのです。

 だからと言って、何も問題がないというわけではありません。たとえば、経常収支赤字が円安をもたらし、それによって輸入物価が高騰し、高インフレになるのであれば、国民は、高インフレという負担を課せられることになるでしょう。

 もっとも、5年間の防衛費を43兆円にする程度では、高インフレを発生させるほどのインパクトはないかもしれません。しかし、今後、国防の必要に迫られて、高インフレになるほど、防衛力を急激かつ、より大規模に強化せざるを得なくなるかもしれません。その高インフレこそが、国民の負担なのです。

 要するに、国を守るために、今を生きる世代が共有しなければならない真の負担があるとすれば、それは税ではなく、高インフレなのです。その意味において、国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議が、防衛力の強化には「自らの国は自ら守るとの国民全体の当事者意識」が必要であり、その負担は「今を生きる世代全体で分かち合っていくべきだ」と言ったのは、正しかったと言えるでしょう。

【プロフィール】
中野剛志(なかの・たけし)/1971年、神奈川県生まれ。東京大学教養学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)入省。エディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。同大学院より優等修士号、博士号を取得。論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『小林秀雄の政治学』(文春新書)、『奇跡の経済教室』シリーズ(ベストセラーズ)など。最新刊は『どうする財源――貨幣論で読み解く税と財政の仕組み』(祥伝社新書)。

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