年金の受給開始年齢は引き上げられ、年金額も目減りを続けている。私たちが老後に安心して暮らそうと考えるなら、60歳、65歳以降も働き続けることも視野に入ってくるだろう。そんなときに知っておかなければならないのが、60歳以上で働きながら(厚生年金に加入して)年金を受け取ると受給額が自動的に一部または全額カットされる「在職老齢年金」制度だ。その歴史を振り返ると、政府の都合でコロコロと制度が変更されてきたことがわかる。今の仕組みはどうなっているのか。「年金博士」こと社会保険労務士の北村庄吾氏が解説する。
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在職老齢年金制度により、私たちの年金額はどれくらい減らされるのでしょうか。まずは直近の制度改正前の事例からご紹介します。
64歳の会社員Aさんは、月額で賃金30万円をもらいながら年金10万円を受け取っています。Aさんは給料と年金を合わせて月額40万円の収入があることになります。しかし、「在職老齢年金」制度により、月額28万円を超えた額の“半分の年金額”がカットされるのです。つまり、Aさんは40万円-28万円=12万円の半分である「6万円」が、10万円の年金からカットされ、4万円の年金しか受け取れないのです。
それが、2022年の改正前の制度でした。「働きながら年金をもらう」ことが当たり前になった時代において、この制度には多くの批判がありました。その結果、制度改正され、月額28万円の基準値が月額48万円へと引き上げられたのです。これにより、Aさんのようなケースでは年金が減らされることもなくなりました。
しかし、歴史を振り返ってみると「在職老齢年金制度」は頻繁に制度が変わっています。
在職老齢年金制度ができたのは昭和44年(1969)年でした。制度発足から昭和61年(1986年)4月までは、60~65歳までの期間で働いている(厚生年金に加入している)と「標準報酬月額等級に応じて、2割、4割、6割、8割、全額がカットされる」という制度でした。また、65歳以上で厚生年金に加入している人に関しては年金額の2割がカットされていました。
昭和61年(1986年)4月、この制度は大きく変わります。
65歳以上の在職老齢年金制度が廃止され、その世代は年金が目減りすることはなくなりました。また、60~65歳に関しても平成7年(1995年)からは「年金額の20%を一律カット、残りは標準報酬月額と年金額によりカット」という制度になります。これでもまだ65歳未満の年金カットが厳しすぎるとの声が多く、平成17年(2005年)には、「年金額の20%を一律カット」が撤廃されました。