田代尚機のチャイナ・リサーチ

【中国・不動産不況】北京市の豪邸、37億円で売りに出されるがまだ買い手はつかず 固定資産税がない社会では需給調整が働かない

上海と重慶でテスト導入された不動産税の成果

 実は上海市では2011年から、重慶市では2015年から不動産税(固定資産税)がテスト実施されている。多くの業界関係者が導入後に不動産価格が急落するのではないかと心配したが、上海市でも、重慶市でも今のところ、そうした事態には陥っていない。不動産価格を落ち着かせることができなかったという点で期待外れだとする見方もあるかもしれないが、税率を高くすれば確実に供給量を増やし、需要量を減らすことができる。むしろ、不動産税の導入によるショックがなかった点を評価すべきであろうが、テスト地域の拡大は進んでいない。

 全国不動産開発投資の動向をみると、2022年の春から前年割れとなっており、減少幅は直近の8月累計データでも拡大している。不動産市場の低迷が景気回復を妨げる要因となっていて、不動産バブルの拡大よりも市場低迷が長期化することを心配する投資家の方が多いだろう。

 しかし、不動産取引が厳しく制限される中での低迷であり、当局は現在、その規制を徐々に緩めようとしている。たとえば、一線都市ではほかの地域に戸籍のある者や、該当する地域での所得証明が出せない者は不動産を買えない仕組みとなっているが、その規制を緩めようとする動きがある。拙速に行えば、不動産投機が復活する可能性が高いだろう。

 そもそも、不動産は美術品などとは根本的に性質が異なる。不動産は物件を作る際に、多くの労働力を必要とし、建材から完成後の家電製品に至るまで、幅広い産業で波及効果がある。もし、不動産を住むためのものではなく、投資、投機の対象とするのであれば、膨大な資源の無駄使いとなる。

 これまでの中国経済の発展が質の悪い投資によって牽引されてきた面がある。今後、イノベーション、消費主導の経済に変わる必要があるが、そのためには不動産税の導入から、中央・地方の財政構造の見直し、イノベーションを加速するための金融システムの高度化まで、大規模な経済システムの変更が必要となりそうだ。

文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。

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