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「40代で退職、しばらく専業主婦に」iDeCoの受け取り方で税金がどう変わるか、FPが解説 「一時金なら専業主婦でも“退職所得控除”が使える」

月2万3000円の積立を20年間続けた場合は

 たとえば、月2万3000円の積立を20年間続けた人が、60歳で受取をすると、退職所得はいくらになるでしょうか。

 この場合、退職所得控除額は40万円×20年間=800万円です。

 受取できる金額は運用成果によって異なるため、20年間の利回りが1%だった場合、3% だった場合、5%だった場合の3種類について、一般的な試算として退職所得を出してみます。なおシンプルにするためにiDeCoに関する手数料は考慮していません。

【1】利回り1%の場合の受取金額:611万円
→退職所得はゼロ

【2】利回り3%の場合の受取金額:755万円
→退職所得はゼロ

【3】利回り5%の場合の受取金額:945万円
→退職所得は、(945万円-800万円)×1/2=72.5万円

 運用益が大きくなった【3】の場合にのみ、所得税・住民税合わせて約11万円ほど税金がかかりますが、【1】や【2】より手取りは多くなることがわかります。

 ただし退職所得の計算において、iDeCoの一時金受取の前年から19年以内に、会社から受け取った退職金が合算の対象となることに注意が必要です。たとえば43歳で前職の会社から退職金を受け取っている人は、20年空けた63歳以降にiDeCoの一時金受取をすれば影響がないことを覚えておきましょう。

年金形式で受け取る場合は「公的年金等控除」を受けられる

 iDeCoを年金形式で受け取る場合は「公的年金等の雑所得」扱いとなり、iDeCoの受取額から公的年金等控除を引くことができます。65歳となり老齢基礎年金など公的年金を受け取り始めると、その金額も含めた「雑所得」が課税対象となります。

 公的年金等の雑所得の計算式は次の通りです。

【公的年金等の雑所得=(iDeCo受取額+公的年金)-公的年金等控除額】

 公的年金等控除額は次のとおりです。

公的年金等控除額。公的年金等に係る雑所得以外の合計所得金額が1000万円以下の場合

公的年金等控除額。公的年金等に係る雑所得以外の合計所得金額が1000万円以下の場合

 運営管理機関によって、年金形式で受け取る期間は、5年、10年、15年、20年などから選べるところや、5年以上20年以下の期間で、1年刻みで好きな受取期間を選べるところなどさまざま。ここでは平均利回り3%で運用できた前述の【2】を例にして、60歳から年1回、5年間で受け取った場合を試算します。1回あたりの受取金額が変動しない前提で試算します。

【利回り3%の場合の受取金額:755万円 1回あたりの受取金額は151万円】
→公的年金等控除は151万円×25%+27.5万円=65.25万円 

 公的年金等の雑所得は85.75万円(151万円-65.25万円)となり、他の所得と合算して税金がかかります。10年受取にすると1回あたりの雑所得が15.5万円(75.5万円-60万円)となり、所得税や住民税の基礎控除よりも少ないため、公的年金の受け取りが始まる64歳までは税金がかからない可能性が高いです。また65歳になると、公的年金以外にも昔勤めていた会社の企業年金も含めて税額計算することになります。

 しかし年金受取にした場合、税金以外の影響もあります。年金受取が終わるまでは、iDeCoの口座管理手数料や給付手数料がかかりますし、配偶者が退職するなど扶養から外れた後は、国民健康保険に加入するため、保険料上昇にもつながります。

 このように比べてみると、【2】のケースであれば税金が発生しない一括受取の方が、手取りが大きく最良の選択に思えます。しかし、年金受取にしても、受取期間中の運用状況によっては、資産が大きくなるかもしれないため、一概に最良とは言えません。

 専業主婦のように他に退職金がないケースであれば、多くの場合、一括受取を選べば税金はそんなにかからない(またはゼロ)でしょう。そのためiDeCoを始めることに大きな躊躇は不要と考えます。今後また働き始めたときには、所得控除の恩恵が受けられるのも嬉しいですね。

【プロフィール】
鈴木さや子(すずき・さやこ)/株式会社ライフヴェーラ代表。CFP認定者、1級FP技能士、DCプランナー1級・キャリアコンサルタント(国家資格)。保険等商品を一切販売しないFPとして活動。専門は教育費・保険・マネー&キャリア教育、確定拠出年金。企業講演の他、小・中学校や自治体等の講演やワークショップなど、保護者や親子向けイベントも行う。大学生2の母。著書に『資産形成の超正解100』(朝日新聞出版)がある。

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