“新ルール”を活用して将来の年金額を増やすことも可能(写真:イメージマート)
平均寿命が延び、「長い老後」で資産が尽きないようにするために、60歳以降も働き続けるのが当たり前の時代になった。60代前半の男性の就業率は84%にのぼり、60代後半でも62.8%が仕事に就く(総務省「労働力調査」、2024年)。多くの人が、65歳受給開始が基本となる公的年金を受け取りながら働いている。
そうした人たちにとって注目すべき“新ルール”がある。うまく活用すれば、将来の年金額を大きく増やすことも可能だ。今年は5年に一度の年金制度の改正があり、「働きながら年金受給」をする人にかかわる内容が含まれる。“年金博士”こと社会保険労務士の北村庄吾氏が解説する。
「『在職老齢年金』のルールが見直され、支給停止の基準が引き上げられることになるのです。現行ルールでは、会社員として働きながら年金を受け取る人は、『給料+年金(厚生年金の報酬比例部分)』の合計額が月51万円を超えると、超過分の半額の年金がカットされます。“もっと働いて稼ぎたい”と考えるシニア層の働く意欲を削ぐ制度として悪名高かったこともあり、今回は支給カットの基準が月62万円に引き上げられる見通しです」
年金(報酬比例部分)が月額10万円で、月給45万円の人の場合、現行ルールでは年金が月2万円カットされるが、新ルールでは満額受給となる。厚労省の資料によれば、65歳以上で働きながら年金を受給する308万人のうち、支給停止の対象者は約50万人に及ぶ(2022年度末時点)。
「支給停止を避けるために“働き控え”をする人を含めれば、影響はもっと広範囲に及ぶでしょう」(北村氏、以下同)
今後は支給カットをほとんど気にする必要がなくなり、働ける人はどんどん給料を増やすことを考えられるようになるわけであり、そのメリットは様々ある。
「たとえば、年金受給開始を遅らせることで受給月額を増やす『繰り下げ受給』を選ぶメリットが増します。在職老齢年金の仕組みでは、“どうせ支給停止になるなら繰り下げて年金を増やそう”と考えても、支給停止になるはずだった部分は繰り下げによる増額の対象外。せっかく繰り下げてもそんなに増えないわけですが、支給停止基準が緩和されると、より多くの人が繰り下げの恩恵をフルで受けられるようになります」
受給開始を66歳以降に遅らせる繰り下げ受給は、1か月後ろ倒しにするごとに年金月額が0.7%増える。70歳受給開始を選べば42%増となる。