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人はなぜ食べ放題に行くのか? 焼肉チェーンのなかで一人勝ち状態「焼肉きんぐ」絶好調の秘密

焼肉きんぐの食べ放題コース

焼肉きんぐの食べ放題コース

満腹を提供するのではなく、「満足の体験」を売っている

 ここで、ワンらの論文を概観すると以下のようになる。

 論文では、食べ放題レストランの魅力は「料理の質」「メニューの多さ」「店の雰囲気」「価格」「量」のバランスによって決まると指摘している。このような複合的な要素が、満足感や健康意識、安心感につながり、再訪意向を高めるという。さらに、食べ放題における満足は「どれだけ食べたか」ではなく、「どれだけ満足できたか」によって左右されると明言している。

 また、再訪の動機として「新しいメニューの発見」や「料理の提供スタイル」が大きく影響することが明らかになっている。食事は栄養補給だけでなく、感情や気分に関わる体験でもある。そのため、メニューに変化や驚きがあること、安心して食事を楽しめる環境があることが評価につながるという。また、「人による接客の印象」や「空間の快適さ」も知覚されるサービスの質に大きな影響を与える。価格についても、「安さ」よりも「支払った価格に見合った体験」があるかどうかが満足度を決める鍵になるとしている。健康面では、「自由に選べるが罪悪感が少ない」設計が、現代の食べ放題においては重視されているわけだ。

 焼肉きんぐは、まさにこうした理論に基づく「満足設計」を実践しているブランドである。メニューは定番に加え、ラーメンや石焼ビビンバ、デザートまで揃っており、焼肉だけにとどまらない多様な楽しさが用意されている。季節ごとのフェアメニューも定期的に導入され、来るたびに新しい発見があるよう工夫されている。料理はビュッフェ形式ではなく、都度注文方式で提供されるため、品質が安定し、できたてを楽しめる。

 店舗内では、特急レーンやタブレット注文を活用することで、客が自分のペースで食事を進められる。こうした「自分で選び、自分でコントロールできる」構造は、安心感と満足感を生み出す。全国に展開する中でも、声かけや料理提供のスピード、接客態度に大きなばらつきが出ないよう、マニュアルに基づいた均質なサービスが保たれている。

 また、幅広い年代に対応していることも特徴だ。学生や会社員はもちろん、子ども連れや高齢者グループの利用も多い。野菜メニューや軽めの料理、小サイズのデザートなどが揃っており、「たくさん食べられるけれど体にも気を使える」という安心感もある。価格帯は決して最安ではないが、それでも多くの客が「払った以上の価値がある」と感じている。

 焼肉きんぐは、満腹を提供するのではなく、「満足の体験」を売っている。味や価格だけでなく、空間・サービス・気持ちの面まで考え抜かれた設計が、人々の再訪意欲を支えているのである。

【プロフィール】
小倉健一(おぐら・けんいち)/イトモス研究所所長。1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立して現職。

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