「愛」と「友情」はお金を嫌う
誰もが愛をお金で買っている
山崎:若い人の間では、「愛」や「恋人」をお金で買える時代になった、と。
橘:進化論的に考えれば、人類はずっと金融資本とエロス資本を交換してきました。男は若くて健康でたくさん子供を産める女を求め、女は出産と育児にかかる多大なリスクをヘッジするため、富と権力を持つ男を求めてきたのです。
山崎:高度成長期のお見合い結婚は、そうした戦略の表れだと言えるかもしれませんね。特に女性は、社会進出が進んでおらずひとりで稼ぐのが難しかった時代にお見合いというシステムを通じて、結婚後の安定した生活を買っていたのではないでしょうか。
といっても、結果的にお見合い相手と愛情や絆は芽生えます。入り口がお金なだけで、真実の愛を“買う”こともできる、ということ。
橘:遺伝子に埋め込まれた男女の性愛戦略を目に見えるかたちにしたのが、十数年前に登場したマッチングアプリです。そのビッグデータを見ると、男性の興味は若い女性に集中しています。他方、女性が重視する属性は50項目以上ある中でたった1つ、「年収」だったそうです。
山崎:現代も、男女が結婚に求めるものは変わっていないのですね。
結婚に際して、パートナーの年収が大きな判断材料になることは間違いありません。例えば年収200万円の人が年収800万円の人と結婚して世帯収入が上がると、幸福度が上がる。「低所得からの脱出」が幸福度を大幅に上げることは、内閣府などの調査でも明らかです。私は「愛」は「幸福」とも言い換えられると思っています。
橘:実質的には、愛はかなりの程度まで、お金で買えるものなのでしょう。でもそれを認めると、せっかくの純愛が売買春になってしまう。これはやはり心理的な抵抗が大きいから、みんなが幸せに暮らせるよう、「愛は美しい」という純愛物語をつくって、醜い真実を隠しているんです。
山崎:まさに「不都合な真実」ですね。
橘:日本社会には「お金は汚い」という感覚がありますからね。謝礼のお札などを封筒に入れて渡すのも、現金を直接手渡しするのは「下品」だとされているから。本当はお金が好きなのに、お金は汚れたものという社会的合意がある。愛を育むためには、お金を隠さないといけないしきたりなんです。