減額ルールが延長されれば累計200万円のカットに
では、厚生年金の「減額ルール」延長でサラリーマンの年金はどれだけ減らされるのか。
新聞・テレビは、5年後に基礎年金底上げが実施されれば、「大多数は年金アップ」「30年後の夫婦の年金は月2万円アップ」などと厚労省の試算を鵜呑みにして報じている。それは大嘘だ。
「底上げというのは年金の給付水準が低下するのを食い止めるだけです。たとえば、5万円下がるところが3万円の低下で抑えられたとしても、それを年金アップとは言いません」(北村氏)
厚労省が基礎年金底上げで「夫婦の年金水準が2万円底上げ」されると試算しているのは2057年度のことだ。厚生年金と基礎年金の減額期間の調整が実施された場合、厚生年金は20年後の2045年度まで現在より給付水準が下がると試算されている。
年金減額ルール(マクロ経済スライド)は、物価や賃金が上昇した時、年金を少ししか上げずに目減りさせる仕組みだ。
この6月から支給される年金は夫婦2人のモデル年金で月23万2748円(新規裁定者)。前年より月額約4000円アップと厚労省は発表した。
しかし、年金額の改定にあたってはこの3年間、年金減額ルールが適用されてきた。国民には極めてわかりにくいかたちで、物価・賃金上昇で本来もらえるはずの年金額より低く抑えられてきたのだ。
この3年間の減額が適用されなかった場合の年金額を試算すると、今年6月支給分の夫婦2人の年金額は月額23万8093円で今より5309円、年額にすると6万3708円も多いはずだった。もらい損なった年金額は3年分で約10万円になる。
この減額ルールは、減額された年金額を基準に、次の年の改定(減額)が行なわれるため、期間が長いほど減額される金額が大きくなっていく。
減額ルールの適用延長によるサラリーマンの厚生年金の年金額の推移を試算した(図参照)。
減額が予定通り2026年度で終了した場合の年金額と、減額が続いていくケースの年金額を比較すると、5年間で5万6000円、10年間では34万3000円、20年間なら約200万円の年金カットになる。これは報酬比例部分の減額だけだ。基礎年金も減額されていけば、1階(基礎年金)と2階(報酬比例部分)を合わせた年金の減額は約1.5倍になる。
これほどの年金カットになることを厚労省も自公も立憲民主党も国民に伝えようとしない。
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※週刊ポスト2025年6月27日・7月4日号