日本政治を「ガラガラポン」するしかない?(イラスト/井川泰年)
7月の参議院選挙を前に各政党の公約が発表されている。これらの公約を見て「大衆迎合のバラ撒き合戦」と呆れるのは経営コンサルタントの大前研一氏。いま日本が本当に取り組むべき課題とはなにか、そのために日本の政治はどうあるべきか──。大前氏が提言する。
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いよいよ7月の参議院議員選挙で、石破茂政権に“最後の審判”が下る。
私は昨年秋の本連載で「石破氏と過去に何度か会ったことがあり、その際に彼は『自分は小泉進次郎氏が首相になるまでの橋渡し役』と言っていた。ならば、もし総選挙に敗北したら、潔く退陣して進次郎首相を実現するために汗をかけばよいのではないか」と書いたが、総選挙に負けても、政策の成果がゼロで内閣支持率が「危険水域」とされる20%台に低迷しても、予想外に“延命”している。
進次郎氏を農林水産相に起用したのは首相にするための布石だろう。石破首相の期待通り、進次郎氏は備蓄米放出問題における迅速かつ大胆な対応で、後継候補の1人に躍り出ている。
それはさておき、石破首相が“長持ち”している理由は、大きく2つある。
1つは、野党が石破首相のままのほうが参院選で与しやすいと考えていること。もう1つは、マスコミや識者、民衆の批判力が足りないことだ。新聞・テレビは首相や政治家の発言を垂れ流すだけで、それに対する論評はほとんど見当たらない。また、SNSなどでも賛否両論、喧々轟々で、議論は平行線をたどるばかりだ。
結果、自民党内でも「代わりがいない」となり、石破首相が居座っているわけだが、これまでの首相についても「代わりがいない」と言われてきた。安倍晋三首相の時も菅義偉首相や岸田文雄首相の時も、首相批判が高まるたびに代役の不在が理由にされた。しかし結局、いつも代わりはいた。
私が知る限り「これだけは必ず実現する」という信念を持ってそれを実行した首相は中曽根康弘氏と小泉純一郎氏だけである。
中曽根氏は「日米イコールパートナー」を唱え、ロナルド・レーガン大統領と親密な「ロン・ヤス」関係を築いて日米安全保障体制を強化した。当時としてはかなりの荒療治だった3公社5現業の民営化も成し遂げた。小泉氏は「郵政民営化」を主張し、反対する自民党の候補者の選挙区には“刺客”を送るという荒業を繰り出して推し進めた。
それ以外の人たちは1日でも長く首相でいたいだけで、政治生命を懸けて独自の政策を実現した例は寡聞にして知らない。それは石破首相も同じであり、だから何の成果もないのである。中曽根氏や小泉氏のような「一点突破」の目的がなければ、誰が首相になっても日本は変わらないのだ。