トランプ大統領の限界も見えてきたか(イラスト/井川泰年)
トランプ大統領の言動に世界が振り回される状況が続いているが、「トランプ大統領の限界が明らかになり、終焉が見えた」というのは経営コンサルタントの大前研一氏。アメリカの現状を大前氏はどう見ているのか、また日本はどう対応すべきなのか。大前氏が分析・提言する。
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トランプ大統領の言動が“日替わりメニュー”で、世界とアメリカ国内を混乱させている。
G7サミットを途中で切り上げて帰国したかと思えば、6月21日には、イスラエルと交戦中のイランの核施設を空爆。「12日間戦争」によって、中東に「永遠の平和」が訪れたと喧伝した。
6月14日には、自身の79歳の誕生日に合わせて首都ワシントンで34年ぶりの軍事パレードを開催し、強権を誇示。その一方では、独善的なトランプ大統領の移民取り締まり政策に抗議する「No Kings(王はいらない)」デモが全米約2000か所で行なわれた。アメリカ社会の「分断」がますます加速しているのだ。
そんな「分断」の象徴的なトピックが、蜜月関係だったイーロン・マスク氏との“公開バトル”だろう。
EV(電気自動車)大手テスラや宇宙企業スペースXなどのCEO(最高経営責任者)で政府効率化省を率いていたマスク氏が、退任後すぐに自身のX上で、大型減税を柱とするトランプ政権の「大きく美しい法案」を財政赤字が拡大するとして痛烈に批判。これに対し、トランプ大統領は「イーロンにはとてもがっかりしている。大いに助けてやったのに」と反発した。
返す刀でマスク氏は「自分がいなければトランプは選挙に負けていた。……何て恩知らずなんだ」と投稿。対するトランプ大統領は、「予算から何十億ドルも減らす一番簡単な方法は、イーロンへの政府補助金や契約を打ち切ることだ」として、マスク氏の企業とアメリカ政府が結んでいる巨額の業務委託契約を破棄する可能性を示唆した。
それを受けてマスク氏は、スペースXの宇宙船クルードラゴンを「ただちに退役させる」と表明。さらに「いよいよ本当の大型爆弾を落とす時だ。トランプはエプスタイン・ファイルに名を連ねている。それがファイルが公表されない本当の理由だ」と投稿した。「エプスタイン」とは、性的人身取引で起訴され、2019年に拘置所で自殺した富豪ジェフリー・エプスタイン元被告のことであり、新たな疑惑が持ち上がった。
その後、マスク氏はこれらの投稿を削除して「後悔している。やりすぎだった」と書き込み、トランプ大統領も「彼がああしたのはとてもよかったと思う」とコメント。両者はよりを戻しつつあるようだが、元の鞘に収まることはないだろう。
私は半年前の本連載で「2人の蜜月関係は長続きしないだろう」「おそらく1年以内、早ければ半年ほどで仲違いし、マスク氏はやりたいことだけやってさっさと辞任するのではないか」と予測し、その通りになった。さらに「トランプ大統領の発想はメキシコ国境に壁を建設するなど19世紀的だ。かたやマスク氏の発想は21世紀的で、2世紀の格差がある」とも指摘したが、古き「王」=トランプ大統領とマスク氏の「分断」の根は、想像以上に深いのだ。
第2次トランプ政権発足当初は、GAFAMN(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフト、エヌビディア)などの巨大IT企業もトランプ大統領に媚を売ったが、もともと多様な価値観を認める西海岸で誕生したそれらの新自由主義的な企業と、中西部の「ラストベルト(錆びた工業地帯)」の白人貧困層の“エレジー(悲歌)”に訴えかける保守主義のトランプ大統領・バンス副大統領コンビは水と油だ。