「オールインクルーシブ」の旅行がなぜ人気を集めるのか(写真:イメージマート)
近年、オールインクルーシブの宿泊プランを設定する宿泊施設が増加している。「All Inclusive=すべて込み」ということで、滞在中に必要なサービスがすべて含まれている料金体系となっている。オールインクルーシブ流行の背景にはどのような消費者心理があるのか、またそこで浮き彫りになる課題とは。イトモス研究所所長・小倉健一氏が、オールインクルーシブについての研究論文を読み解き、解き明かす。
* * *
今、旅行の世界で「AI」が流行している。しかし、それは人工知能のAIではなく、オールインクルーシブのAIである。
オールインクルーシブとは、旅行や宿泊の料金体系の一つで、「宿泊費に食事・飲み物・アクティビティ・施設利用料など、滞在中に必要な主要なサービスがあらかじめ含まれている方式」を指す。あらかじめ全ての料金が含まれているので、追加料金を気にせずに滞在を楽しめるのが特徴だ。
国内のリゾートホテルでも導入が相次ぎ、大江戸温泉物語グループの「TAOYA」は岐阜や和歌山に新たな施設を開業し、全国で10カ所まで拡大した。亀の井ホテルは日光湯西川を全面リニューアルし、ジュラクグループも伊東ホテルジュラクを改装して導入を進めた。
筆者も同サービスを沖縄で利用したことがあるが、たしかに、これ以上お金を取られないというのは心理的なストレスがない。結果、一般的なホテルプランよりも割高になっているような気もするのだが、リゾートとは気分を味わうものだと言われれば納得できる部分はある。
楽天トラベルの調査では、2024年末から2025年始にかけての予約動向で、オールインクルーシブを含むプランの予約数が前年比で3倍以上に伸びたと報告されている。子連れ家族での利用が4.4倍と特に増加し、人気を牽引している。天候や気温に左右されずに施設内で休暇を完結できる点が支持され、需要の伸びを支えている。日本のホテル市場では外資系高級ホテルの参入や宿泊料金の高騰が進み、旅行者は節約と満足を同時に求めている。オールインクルーシブは、ちょっと高級だが支払いは「定額」という安心感を提供し、その心理に応える構造となっている。
利用者側にとっては財布を気にせず楽しめる環境が整う。家族での食事やラウンジ利用もすべて込み込みで、会計をめぐる煩雑さが消える。グループ旅行でも割り勘や後精算の手間が省け、旅行の時間を共有することに集中できる。ホテル側にとっても来館者数の予測がしやすく、仕入れや人員配置の効率化につながる。廃棄ロスを減らし、サービスの充実を図ることで顧客満足度を高め、リピーターの獲得にも結びつく。旅行者とホテルの双方に利益をもたらす仕組みとして、オールインクルーシブは急速に普及している。