「朝起きられない」をどうやって克服するか(イメージ)
目覚ましを何度も止めてしまい、気づけば遅刻ギリギリ。夜は遅くまで眠れず、朝は体が動かない。「また遅刻してしまった」と自分を責める日々が続く。これは、ADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)といった発達障害の特性を持つ人が抱える「朝が苦手」という困りごとだ。では、どのようにこれに対処すればよいのか。障害者の社会復帰を支援し、YouTubeチャンネル「発達障害しごとラボ」を運営する柏本知成氏の著書『ポストが怖くて開けられない! 発達障害の人のための「先延ばし」解決ブック』から、やる気が無くても朝起きられる環境作りについて解説する。【全3回の第3回。第1回から読む】
目次
朝が苦手な人の脳内は、どうなっているのか?
相談に来られる方の中で、もっとも悩まれているケースが多いのが「朝寝坊」に関すること。
「わかってはいるけれど、夜更かしして朝起きられない」
「そんな自分は“社会不適合者”なんだ」
そのように自分を責めてしまっている方が、じつに多いのです。
コールセンターで働く横山ジュンさん(30代女性)は、仕事が好きで電話対応のよさもトップクラス。でも、朝の遅刻グセだけはどうしても改善できませんでした。
ある火曜日の、朝8時55分。ジュンさんは、今日も改札を駆け抜けています。出社時刻は9時。まだ間に合う──はずなのに、改札を出た瞬間、スマホの着信音が鳴りました。
「ジュンさん、あと5分で朝礼が始まります。大丈夫ですか?」
リーダーの声に胸がキュッと締めつけられます。
「また迷惑をかけてしまった……私って、どうしていつもこうなんだろう」
じつは、昨晩夜中の2時まで眠れず、やっと眠りについたのは3時過ぎ。目覚ましは6時に鳴ったのですが、頭はぼーっとして体が動かなかったのです。枕元のスマホには「スヌーズ×7回」の履歴が並んでいます。
同僚からは「やる気が足りないだけ」と言われ、悩んでいました。
朝が苦手な人は、けっして怠けているワケではありません。脳の特性や体のリズムが、関係している可能性があります。その背景を見ていきましょう。
・体内時計のズレ(生理的リズム)
発達障害、特にADHDとASD併発型の人は、眠気を起こすホルモン「メラトニン」の分泌が一般的な人より2、3時間遅れがちです。夜になっても脳が「まだ昼間だ」と勘違いしてしまうのです。
・感覚が敏感すぎて「寝付きにくい」(感覚処理)
エアコンの小さな音、街灯の明かり、不規則な物音など、わずかな刺激に敏感な人はなかなか深く眠れません。浅い睡眠が続くと、アラームでも目覚めにくくなります。
・朝の行動の複雑さ(実行機能)
実行機能に関わる「起き上がる→顔を洗う→着替える」という一連の動作を、まだぼーっとした頭で計画するのは、じつは大変なこと。考えているうちに二度寝してしまうのも、無理はありません。
怠け心ではなく、このような生理的リズム・感覚処理・実行機能という“脳の三重ハードル”が、朝のスタートを難しくしていたのです。
