フィジカルAIの注目企業は(写真:時事通信フォト)
フィジカルAI(物理的な身体を通じて自律的に行動・作業するAI)が次なる成長領域として注目を集めている。フィジカルAIが注目される背景は何か、また、どのような企業が投資対象として注目を集めるのか。個人投資家、経済アナリストの古賀真人氏が分析し、その注目銘柄を解説する。
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生成AIへの巨額投資が続く一方で、投資回収への懸念も強まっている。そんな中、「フィジカルAI」が次なる成長領域として市場の注目を集めている。いったいどのようなものなのか。
実世界で動くAIロボティクスの台頭
フィジカルAIとは、実世界で物理的に動作し、作業を実行するAI技術を指す。従来の生成AIが画面上で文章や画像を生成するのに対し、フィジカルAIはロボットアームで部品を組み立て、自律走行車が荷物を運び、検査ロボットが製品の品質を判定するといった具体的な物理作業を担う。
このフィジカルAIが注目される背景には、生成AI投資の収益化問題がある。OpenAIは数兆円規模の資金を調達し、Microsoftはデータセンター構築に年間数兆円を投じているが、生成AIサービスの多くは月額数千円程度の課金モデルであり、投資額に見合う収益を生み出すことができるのか、現段階ではなかなか道筋が見えていない。
しかしながら、実世界で明確な価値を生み出すフィジカルAIは、製造現場での不良品削減、物流倉庫での作業効率化、医療現場での手術精度向上など、目に見える成果と直結するため、中長期的な収益化の見通しが期待できる。AIブームは生成AI以外の収益源として、収益目途がリアルに期待できるロボティクス分野へと注目が移行している。
フィジカルAIの実装については、人手不足と高齢化という社会課題も強力に後押しとなる。特に日本や欧州では労働人口の減少が深刻であり、産業ロボティクスの導入は選択肢ではなく必然となってくる。日本の生産年齢人口は2050年までに現在から約30%近く減少すると予測されており、製造業や物流業では既に深刻な人材不足が表面化している。日本の物流業界では2024年問題としてドライバー不足が社会問題化し、製造業では熟練工の引退が相次ぎ、その技能をAIとロボットで代替する取り組みが加速している。
介護や医療の現場でも深刻な課題を生んでいる。高齢者施設での見守りや病院での薬剤搬送など、人手を要する単純作業をロボットが担うことで、医療従事者が本来の専門業務に集中できる環境が整いつつある。
労働力不足が構造的な問題である以上、この分野への需要は拡大していくことは必至だ。米国では、人型ロボット開発企業数社の合計で約1000億円規模の資金調達が実現しており、大手EV企業も汎用ヒューマノイドロボットの開発を加速させている。
日本には世界トップクラスのロボティクス技術を持つ企業があり、フィジカルAI時代において、これらの企業が持つ技術力と信頼性は大きな競争優位となる。フィジカルAIで注目すべき企業を紹介しよう。
