辛くてうまい陳マーボー
最後の晩餐には麻婆豆腐を
早くも満ち足りた気分になってくる。焼酎のロックとか紹興酒とか、この先の酒へと進んでじっくり飲みたい気もするが、どうやら1階のスペースは、本日午後3時でいったん休憩に入るらしい。
そうであるなら、次の料理の注文を急ごう。あと1品ずつ頼むことにして、私が選んだのは、麻婆豆腐。
さきほど、青椒肉絲の前を素通りできないと告白したばかりだが、実は私、最後の晩餐にナニが喰いたいと問われたら、麻婆豆腐と答えることにしている。なんか恥ずかしい気もするのだけれど、好きなんだなあ。正確に言うと、麻婆丼が好きだ。
そこで、メニューの野菜、豆腐、玉子のページを見れば、マーボーナス、マーボー豆腐、陳マーボー豆腐の3つがある。この店は中華の鉄人・陳建一さんとも交流があり、陳さんの麻婆豆腐を出してもよろしいというお墨付をいただいているらしい。
となれば迷うことなし。陳マーボーで参りましょう。
一方のケンちゃんは、やはり飯で締める。チャーハンだ。そこでご飯&スープのページを見ると、海老チャーハン、レタスカニ肉チャーハン、五目チャーハン、キムチチャーハン、カニチャーハンとあって、もう1品、石川家チャーハンなるものがある。
実に悩ましいところだが、ケンちゃんは熟考の末、石川家チャーハンを頼んだ。
レモンサワーをもう1杯。しばし歓談。話題は次週の大阪杯。クロワデュノールで決まりだろうねえ。いや、メイショウタバルも怪しいよねえ、と、実に他愛もない。
来ました、陳マーボー。
うまい! 辛い! しかしうまい、ゲホゲホゲホ! 喉にトウガラシが沁みてむせ返りつつ、レンゲを動かす手は止まらず。昼間の私は血の巡りが非常に悪いが、そんな私の体内で血がどくどく流れ、皮膚に汗がにじむ。レモンサワーが格別にうまい。
石川家チャーハンがまた傑作だった。これ、鮭チャーハンなんですよ。うまいねえ。日本風チャーハンの極みではないか。鮭フレークのほどよい塩味が、パラパラの米の隙間という隙間にやさしく隠れていて、鮭がほのかに香るのも驚き。
シンプルだけど鮭がいい仕事をしている石川家チャーハン
これくらいさっぱりとした上品なチャーハンならば、あれこれ飲んだり食べたりした後でも難なく腹に収まってしまう。一人で持て余しそうだと思っても、エイヤ!っと頼んでみてほしい。2人、3人で行くなら締めには忘れずに。
はあ、よく食べた。実に充実した昼酒だ。腹ごなしに、近くを流れる「呑川」(のみかわって読むんだよ!)沿いに歩き、散りかけた桜でも眺めるか……。少し歩いて小腹が減ったら、もう1軒くらい、どこかに飛び込んでみよう。
昼酒爺ィは腹をさすりながら、呑川方面へと歩き出すのでした。
どのメニューもクオリティが高い老舗の町中華だ(「石川家食堂」東京都大田区蒲田5-3-4)
【プロフィール】
大竹聡(おおたけ・さとし)/1963年東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒。出版社、広告会社、編集プロダクション勤務などを経てフリーライターに。酒好きに絶大な人気を誇った伝説のミニコミ誌「酒とつまみ」創刊編集長。『中央線で行く 東京横断ホッピーマラソン』『下町酒場ぶらりぶらり』『愛と追憶のレモンサワー』『五〇年酒場へ行こう』など著書多数。「週刊ポスト」の人気連載「酒でも呑むか」をまとめた『ずぶ六の四季』や、最新刊『酒場とコロナ』が好評発売中。


