タンとカシラは輝いて見えた
真面目に飲むことで店の良心に報いる
追加で頼んだのはタンとカシラ。シロコロを焼き、角ハイをぐびぐびと飲みながら、ほどなくしてやってきた皿を見た私は、ここでもひとつ、ため息をついた。タンも、カシラも、とてもきれいなのだ。見るからに鮮度がいい。感服のため息だ。
シロコロとは異なる食感を楽しみながら、私はしみじみ思い出す。初めてこちらの店を訪れたのは2007年の夏。食の専門誌の取材だった。そのとき、3店舗回ったのだが、「酔笑苑」のシロコロは抜きんでているように思った。その後はプライベートで店を訪ねること2度、3度。2014年になると50年を超える酒場ばかりを歩くシリーズ企画で、またまた取材をさせてもらった。その後には、自分ばかりうまいものを喰っているではないかと詰問するカミさんを連れてきた。
いつ、出かけても、毎回、新しい感動があった。ご主人をはじめ、店のスタッフのみなさんの応対がきびきびしていて気持ちよく、1階のカウンターでひとり飲み喰いするときも、まったく孤独感を覚えることはなかった。
夢中でタンを喰い、カシラを齧るケンちゃんも、思い出したかのように言ったものだ。
「こちらのスタッフの人たち、本当に気持ちのいい応対をしてくださるんですよ。取材の申し込みの電話を何度か入れたのですが、受け答えも素晴らしくて。お店のご主人の指導がしっかりされているんでしょうね」
私もまったく同意見。ご主人と初めてお会いしたとき、私はまだ43~44歳くらいで、ご主人は私のひとつ年下だと聞いたから、お互いずいぶん若かったのだけれど、その当時から、ご主人の真摯な姿勢はとても印象深いものだった。自分の仕事に惚れ込んだ人の、静かな誇りさえ感じられ、私のほうが身の引き締まる思いだった。
ちなみに、店の創業は1965年(昭和40年)だから、今年で61歳になる計算だ。もとは先代が熱海でラーメン屋さんをやっていたが、東京オリンピック(昭和時代の東京五輪ね)の頃に熱海から厚木へ出てきたのだという。昭和40年といえば、私が2歳のとき。それから5年後の昭和45年ごろには、東京・三鷹の屋台のやきとんを食べて、うまいもんだと思ったものだった。そこから数えても、今日まで56年の歳月が流れ、私は今、またもや絶品の豚モツを食べている。なんというシアワセだろう。誰に感謝したらいいのかわからない。横のテーブル、後ろのテーブルで賑やかに飲み食いしている人々に闇雲に感謝したくなる。
これで780円!
「オータケさん、これ見てくださいよ」
ケンちゃんが注文用タブレットの飲み物ページをさして言った。
「メガハイ、780円なんですよ」
「おお! ではフツーサイズは? ええ? 420円!」
「良心的ですよねえ」
「たしかに。ではその店の良心に、私たち飲兵衛は何をもって報いるべきか」
「なんでしょう?」
「真面目に飲むことで報いるのだ。ヘラヘラと適当に飲んではいけない。誠意をこめて真面目に飲まなくてはいけない。いいかい? 酒というのはね。真面目に飲んでもらわないと、困るんだよね」
「今日は話が深いですね」
「深いんだよ、昼酒は常に」

