大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

日本の課題、コロナ禍でも経済の基礎体力を維持できるか

 だがその結果、オーバーリアクションをして経済活動を止めてしまうと、社会全体のダメージ、とくに経済的弱者のダメージが大きすぎる。もう少し理知的に全体を把握しながら正しい警告を出さないと、経済が破綻しかねない。

 たとえば、イギリスでは自らも新型コロナに感染したボリス・ジョンソン首相が、事業を休止した企業の雇用を維持するために従業員の賃金の80%を月2500ポンド(約33万円)を上限に政府が肩代わりすることを決め、3300億ポンド(約44兆円)規模の資金繰り支援策を打ち出した。

 アメリカのドナルド・トランプ大統領も、個人に対する最大1200ドル(約12万8000円)の現金給付をはじめ、航空業界や中小事業者への資金支援などを含んだ2兆ドル(約235兆円)にのぼる緊急経済対策を計画している。

 韓国の文在寅大統領も、総額100兆ウォン(約8兆8000億円)規模の金融支援策を発表。さらに、1か月以上操業を停止するなどした企業に対して社員の休職手当の9割相当を「雇用維持支援金」として支給するという。

 しかし、これらの施策に伴う社会的コストは膨大であり、その財源については誰も説明していない。結果、今や多くの国が“無政府状態”になり、国や都市の封鎖で経済活動を止めながら税金をバラ撒くだけになっている。この経済損失は計り知れない。

 いずれにせよ、日本政府は世界に向けて有効かつ新しい対策を積極的に情報発信すべきである。オーバーシュートや医療崩壊への対策は徹底しつつ、感染拡大は抑えられることを前向きにアピールしたり、ITで物流を「見える化」して買いだめを防いだりして、経済活動を止めずに国民の心理を明るくする政策を推進する──そうしなければ、このまま国の経済全体が萎み続けていくだけだろう。

●おおまえ・けんいち/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊は小学館新書『経済を読む力「2020年代」を生き抜く新常識』。ほかに『日本の論点』シリーズ等、著書多数。

※週刊ポスト2020年4月24日号

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