中川淳一郎のビールと仕事がある幸せ

何が違う?「いい東大卒」と「悪い東大卒」を分けるもの

 そんな一人が、Bさんです。会社に入ると、東大卒は自分一人で、他の同期が馬鹿に見えて仕方がない。そうなると、仕事を任されても「こんなものを東大卒のオレ様にやらせるなんて……」とふてくされます。「上司が馬鹿だから仕事ができない」なんて「ベンチがアホやから野球がでけへん」発言で知られる江本孟紀氏みたいなことを言いたくなってしまう。

 さらに、総合商社やコンサル、投資銀行に行った大学同期と会うと卑屈な気持ちになってしまい、鬱々としてしまう。そこで何を思ったか、Bさんは突然会社を辞め、ライターに転身してしまったのです。

 ところが、ライターの世界は有象無象で、学歴があれば仕事がもらえるなんてことはない。周りのライターを見て、「またバカばかり」なんて思う。そして、学歴もないお調子者が仕事をガッポガッポ取っていく様を見て、常に恨み言ばかり口にするライターになってしまうのです。

出世しなくても「まあ、しょうがないよね」

 一方「いい東大卒」は地方公立高から東大に入った人や、文II、文III、理系出身者に多い印象です。というか、こちらの方が圧倒的に多い。彼らは「テストに強いのと、出世するかしないかは別」ということをキチンと理解しています。

 ですから出世しなかったとしても「まぁ、しょうがねーよな」で割り切る。元々、コンピュータが好きで「オタク」みたいに扱われていた東大卒の広告会社社員・Cさんは、営業成績がよくなかったため、当時マイナー部署だったデジタル広告を扱う部署に異動させられました。

 彼は後に当時のことを振り返り、「あの時は王道のラインを外れ、『こりゃあ窓際族に一直線だ』と思いました」と語っています。

 しかし、2000年代後半~2010年代前半になると明らかにネット広告の需要が増える。「おい、誰か詳しいヤツいないか!」「アイツがいた!」ということで、Cさんに白羽の矢が立ち、会社のデジタル部署拡張にあたり、課長級に抜擢されます。その後のデジタル広告の伸びは皆さんご存じの通りです。

 Cさんは出世ラインから外れても、そこで投げやりになることなく着実に仕事をこなし、今では「ラインに戻った」と言っています。そうです。過剰なプライドを持たない謙虚な東大卒は、元々の地頭はいいし生真面目なので、時流さえつかむことができれば、その実力をいかんなく発揮できるわけです。

 というわけなので、私としては東大卒・東大生だからといって、みんな同列に並べて妙な色眼鏡で見るのはやめた方がいいと思ってます。

【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、博報堂入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『恥ずかしい人たち』(新潮新書)。

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