キャリア

「ドキュメンタリーの東海テレビ」を牽引する阿武野プロデューサーが語る仕事論

 例えば1章「テレビマンとは何者か」。〈「セシウムさん事件」はなぜ起きたのか〉とある。実は『さよならテレビ』が制作されたのも2011年夏、ある生番組のプレゼントコーナーでダミーの当選者名が誤って流れ、風評被害に喘ぐ東北の農家を応援するはずが、「セシウムさん」という不謹慎な人名が映った、〈開局以来最悪の不祥事〉が発端だった。

 その背景に横たわる外注依存体質や労働格差、とりわけ〈「うち」の苛烈な仕事を強いながら、意識のうえでは外部スタッフを「そと」に押し出し続けた組織〉の姿には、著者自身傷ついた。全スタッフが腸を捩る思いでタブーに挑んだ同番組は、放送当初から社内外に大きな反響を呼んだ。

「社の名誉を棄損したとか、社内でも散々言う人がいたけど、今や就活生の大半が『さよなら~』を観ているんです。もちろん結果論ですけど、想像を軽く超えてくるのが現実で、先回りってキリがないんですよ。特に最近はただでさえ強烈な安心安全圧力にコロナ禍が輪をかけ、この異物排除への引力には誰も抗えないのかと思うと、ゾッとします」

仕事を分業でなく「私有」してほしい

 県郊外のニュータウンに暮らす元設計者夫妻の日常を追った『人生フルーツ』では、生産より消費を尊ぶ社会へのアンチとして真の豊かさを問い、ナレーターを務めた樹木希林氏とのご縁も濃密になった。

〈山ほどの禁止事項に埋もれて被害者を気取っていた私は、希林さんとの仕事で、頭と心を自由にすることを教わった〉と恩人を悼む。

「今思うと不思議なくらい、最晩年の貴重な時間を割いてくれたんですよね。希林さんの言う〈地方の恵まれないローカル局〉のために(笑い)。ご本人は『報道の世界を知って得したわ』と話してましたけど、やはり仕事は誰とするかが大事。僕はよく言うんです、番組を分業でも共有でもなく、私有してくれって。そして全員がそう思えるチームが組めたら、僕の仕事はもう終わったも同然なんです」

『ホームレス理事長~退学球児再生計画』 の被写体が金策に窮し、土下座で借金を乞う姿や、〈鬼畜弁護士を描く鬼畜番組〉とも揶揄された『死刑弁護人』など、カメラは時に不体裁な現実をも映し出し、炎上はザラ。が、〈「わかりやすさ」という病〉からどう離れ、〈世の中には理解不能な現実がある〉という事実と切り結ぶかが生命線であり、結論ありきの作品などあり得ない。

「テレビってビックリ箱だと思うんです。その瞬間は嫌なものを観たと思っても、明日は違うかもしれないし、10年後はもっと違うとか。特に最近は今にしか生きられなくなってますからね。すぐわかるも結構だけど、もっと長い時間軸で理解を深める番組もあっていいし、番組をソフト化しないのも、観客との関係作りも含めて全国の独立系映画館が育ててくれたから。

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