大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

プーチンはなぜウクライナに侵攻したか 大前研一氏が“ロシア脳”で読み解く

勢力圏を削られる屈辱と危機感

 19世紀以降のロシア(ソ連)は、侵略するより侵略されたことのほうが多い国である。1812年にはナポレオンが攻め込み、1918年~1922年には日本を含む第一次世界大戦の連合国がロシア革命に干渉してシベリアに共同出兵した。第二次世界大戦ではナチス・ドイツが侵攻した。

 今回、フランスのマクロン大統領はプーチン大統領との仲介役を買って出た。ドイツのショルツ首相もプーチン大統領と電話会談を行なった。しかし、“ロシア脳”から見れば「フランスよ、胸に手を当てて考えてみよ。ナポレオンは何をしたか?」「ドイツよ、ナチスの侵攻を忘れたのか?」となる。かつて侵略した国が説得しようとしても、聞く耳を持つはずがないだろう。

 そして1991年12月25日、ロシアはソ連崩壊という史上最大の屈辱を味わった。その後、ソ連を構成していた共和国が次々に独立し、バルト3国や東欧諸国は米欧の軍事同盟NATO(北大西洋条約機構)に飲み込まれた。

 プーチン大統領は、冷戦終結後の1990年代初めに西側は「NATOは1インチたりとも東方に拡大しないと約束した」と主張している。“アメリカ脳”だと「それは正式な外交文書になっていない」と反論するが、“ロシア脳”からすれば約束は約束であり、その後のNATOの東方拡大は「騙された!」となる。

 さらに、友好関係にあるはずの中国もまた、近年はウクライナとの関係を深める一方で、巨大経済圏構想「一帯一路」によってカザフスタンなど中央アジア諸国や黒海沿岸の利権を侵食してきている。ロシアには、周囲の勢力圏をどんどん削り取られているという危機感があるはずだ。

 ただし、プーチン大統領が本心からNATOを恐れているかというと、全く恐れていないと思う。たとえば、今もしNATO軍が動いたら、瞬時にロシア軍が猛反撃して壊滅状態に追い込む自信はあるだろう。

 それよりもプーチン大統領が危惧しているのは、ウクライナ東部ドンバス地域(ドネツク州とルガンスク州)のロシア系住民に対する抑圧だ。同地域は人口の約30%がロシア系で、なかでも親露派分離勢力が実効支配する「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」では70%に及び、ロシアが2014年に併合したクリミア半島と同じような状況にある。プーチン大統領は両「共和国」の希望者にロシア国籍を与え、ロシアのパスポートも発給している。

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