真壁昭夫 行動経済学で読み解く金融市場の今

資源国ロシアの孤立で供給網が寸断 「世界経済の大転換」が始まった

ロシアによる激しい攻撃を受けたウクライナ東部ハリコフの様子(写真/Getty Images)

ロシアによる激しい攻撃を受けたウクライナ東部ハリコフの様子(写真/Getty Images)

「スタグフレーション」の懸念も

 タイミングが悪いことに、米FRB(米連邦準備制度理事会)は3月16日、いよいよ利上げに踏み切った。FRBとしてはインフレを抑えるため利上げをしつつ、一方ではロシアのウクライナ侵攻による世界的な景気低迷とも向き合うことになり、金融政策のアクセルとブレーキのどちらを踏めばいいのか、相当難しい舵取りを迫られる。

 なにしろロシアは原油、天然ガス、希少金属など天然資源の宝庫であり、ウクライナは小麦の穀倉地帯。さまざまなモノの原材料や食料などが供給不足に見舞われることで、コロナ禍でただでさえ目詰まりを起こしていた世界のサプライチェーン(供給網)が窮地に追い込まれ、さらなる物価上昇につながる可能性が日に日に高まっている。

 このまま世界経済のブロック化が進んでいけば、インフレと景気後退が同時に進む「スタグフレーション」に見舞われる可能性も否定できない。さらに悪いことは重なるもので、「ゼロコロナ政策」を掲げる中国では新型コロナウイルスの感染再拡大によって上海や深センでロックダウンが相次ぐなど、中国の景気減速も鮮明になりつつある。

 こうなると、もちろん日本への影響も見逃せない。コロナ禍で所得が伸びないなか、物価だけが上昇すれば家計の負担は増すばかり。足元の日経平均株価は2万8000円台で推移しているものの、この先2万5000円を割り込む展開も予想される。そればかりか、戦争が泥沼化して、スタグフレーションが現実味を帯びるような最悪のケースを想定すると、日経平均株価はそこからさらに10%程度下落することもあり得るだろう。

 問題は、人々の心理がどこまで堪えられるかだ。過去20年ほどは、グローバル化によって「安定的な成長と緩やかなインフレ」を享受してきたことで、いまあるものはずっと変わらないという「慣性の法則」が働いてきた。株式市場でも、“株価がたとえ下落したとしてもやがて持ち直すはず”といった「コントロール・イリュージョン」に長らく浸ってきた。

 そのため、ウクライナ問題で株価が急落しても、未だに「遠くの戦争は買い」という相場格言を鵜呑みにする向きもある。しかし、かつての朝鮮戦争特需などとは違い、ウクライナ問題によって世界経済がグローバル化からブロック化へとパラダイムシフトすることで、日本人にとってもあらゆるモノが値上げに見舞われる”身近な戦争”が起こっているのだ。

 何よりもいま考えておかなければならないのは「これまでの常識が通用しなくなる」ということにほかならない。「慣性の法則」はいつまでも続かない。そのことを意識できないまま急激な変化に見舞われれば、強迫観念に駆られ、パニックに陥るだけだろう。まずは「これまでと違うこと」をしっかり認識して、冷静な判断が求められる。

【プロフィール】
真壁昭夫(まかべ・あきお)/1953年神奈川県生まれ。多摩大学特別招聘教授。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリルリンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学教授、法政大学大学院教授などを経て、2022年4月から現職。「行動経済学会」創設メンバー。脳科学者・中野信子氏との共著『脳のアクセルとブレーキの取扱説明書 脳科学と行動経済学が導く「上品」な成功戦略』など著書多数。近著に『ゲームチェンジ日本』(MdN新書)。

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