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モノの値段はどう決まるのか?「スイスの高級腕時計」と「日本の伝統工芸品」の違い

岩手の伝統工芸品「南部鉄瓶」(時事通信フォト)

岩手の伝統工芸品「南部鉄瓶」(時事通信フォト)

売り手と買い手の「見えざる握手」

 経済学では、希少性のあるもの、量や数が少ないものは、値段が上がると言われている。ストラディバリウスのヴァイオリンは作り手がもう死んでいるのでこれ以上は増えようがない。スイスの超高級腕時計もそんなに大量生産できない。だからこの手のものは高価格を維持できるという理屈だ。

 しかし、ここでは別の面白い見方をしてみよう。それは、モノの値段は売り手と買い手の空気の読み合いと「握手」によって決まる、というものだ。これを「見えざる握手」と呼ぶ。売り手と買い手が「このぐらいならいいんじゃない」という握手、つまり相場観によって決まるというものだ。

 だから、原材料費が上がっても、買い手が「ちょっとその値段はないよな」と握手をしてくれないのではと怖れると、企業はなかなか値上げに踏み切れないことになる。また高級ブランドメーカーは、超高級機種として強気の価格設定をしたものの、握手に失敗すれば、限定生産だろうがなんだろうがまったく売れないということも起きる。このような相場観を、アーサー・オーカンという経済学者はノルムと呼び、インフレ率を決めているのは中央銀行ではなくノルムなのだと論じた。

 さて、スイスの高級時計も、そしてストラディバリウスも言ってみれば伝統工芸品である。しかし、日本に目を転じれば、伝統工芸品の産業は下降の一途をたどっている。1998年に2800億円あった同産業の市場は、いまは約1000億円まで落ち込んでいるという。取材に応じてくれた経済産業省の担当職員は「工場で大量生産される安い製品が世の中に溢れているので」とその理由を説明してくれた。まあ確かにそうだろうが、それならば、スイスの時計がいまだに売れ続けている現実と矛盾するし、ピークが1998年というのも解せない。

「需要」とは「必要または欲望」

 モノの値段を決めるもうひとつの要因は言葉の力だと僕は思う。よく、「○○についてだったら、一晩中喋っていられるよ」という人がいるでしょう。もしその人が詩人だったとして、たぐいまれなる言葉の力でその伝統工芸品の魅力を言祝ぎ続け、その言葉に感染する人が続出するならば、その伝統工芸品の値段はまちがいなく上がるはずだ。

 モノの値段は、経済学によれば、需要と供給のバランスによって決まる。では、需要とは何か。需要(demand)を英英辞典で引いてみると、“the need or desire that people have for particular goods and services”と出ていた。“the need or desire”、つまり必要または欲望である。

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