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天才起業家・イーロン・マスク氏に問われる経営者の資質 必要なのは有能な“伴侶”か

創業者には“伴侶”が必要?

 マスク氏が天才的な発明家・起業家であることは間違いないが、ヒューマンスキルを兼ね備えた偉大な経営者とは言いがたい。目立ちたがり屋で喧嘩っ早い性格や、人を“道具”としてしか考えない癖は、複数の大企業を持続的に運営していくには問題が多いと思う。

 天才的な発明家で大企業の創業者、という人物は数多い。たとえば、GE(ゼネラル・エレクトリック)のトーマス・エジソン、フォード・モーターのヘンリー・フォード、ソニーの盛田昭夫と井深大、松下電器産業(現パナソニック)の松下幸之助、本田技研工業の本田宗一郎といった面々である。彼らには自分の後継者となる優秀な人材が存在した。また、松下幸之助には高橋荒太郎、本田宗一郎には藤沢武夫という経営の“伴侶”がいた。

 マスク氏自身、テスラについてはすでに後継者の候補を見つけ、ツイッターも「最終的には新たなトップを見つける」ことを明らかにしたというが、独善的な彼の性格からすると、そう簡単にはいかないだろう。経営のパートナーもいない。

 私に言わせれば、そもそもマスク氏がツイッターを所有する必然性は何もない。すでにある会社を改革するのは、発明家・起業家の任ではないからだ。

 したがって、改革の地ならしを終えたら、ツイッターの創業者でCEOを二度務めて追い出された盟友のジャック・ドーシー氏(決済サービス企業ブロックのCEO)に経営を引き継ぐ可能性が高いのではないかと思う。

 ただし、マスク氏の前途は多難である。EVの分野ではテスラをBYDなどの中国勢やドイツ勢が猛追しているし、スペースXも先行きは不透明だ。それらの経営判断を1人で正しくこなしていくことは、いくらマスク氏が天才であっても至難の業だろう。

 さらに迷走して“地獄”に向かう前に、真摯に経営者としての研鑽を積んで人を中心に考えるようになるか、もしくは有能な“伴侶”を見つけないと、いずれは経営から身を引かざるを得なくなり、特許料で稼ぐ財団などを創設するしかなくなるのではないか。

 ちなみに「本能寺の変」の9年前、毛利氏の外交僧・安国寺恵瓊は織田信長について「高ころびに、あおのけに転ばれ候ずると見え申候」と予言していた。いくら力があっても恐怖政治で他人を支配する驕り高ぶった者はいずれ失脚する、という意味だ。希代の起業家マスク氏が、そういう運命を辿らないことを祈りたい。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『大前研一 世界の潮流2023~24』(プレジデント社刊)など著書多数。

※週刊ポスト2022年12月16日号

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