石破政権による「負の置き土産」をどう後始末するか(イラスト/井川泰年)
新たな自民党総裁の座に高市早苗氏が就いた。「新総裁が取り組むべき重要なアジェンダは3つある」というのは経営コンサルタントの大前研一氏だ。新総裁に迫られる石破政権の「負の置き土産」の“後始末”と、これから取り組まなければならない大きな課題について解説する。
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10月4日、自由民主党総裁選挙の投開票が行なわれた。本稿執筆時点(9月末)ではまだ誰が新総裁に選ばれたのかわからないが、立候補者5人の顔ぶれは前回の9人から石破茂首相と勝ち目がなさそうな3人が消えただけのデジャブ(既視感)でしかなかった。まさに自民党停滞の象徴である。
総裁選の議論は、まず石破政権の総括から始めねばならなかった。石破首相は公約を、ほぼ何も実現できずに終わったからである。
たとえば「物価上昇を上回る賃上げの普及・定着」「地方創生2.0の推進」「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」「日米地位協定の改定」「選択的夫婦別姓制度の導入」など、数え上げればキリがない。在任期間が約1年だから仕方がないとも言えるが、その一方で、退陣の区切りとして喧伝したのがトランプ関税の引き下げだった。しかし、これは“花道”を飾る成果ではなく、とんでもない「負の置き土産」だ。
石破首相の側近・赤澤亮正経済再生担当相がアメリカに約束した約80兆円の投資は、日米両政府の指名で構成する「協議委員会」が米側の提案を事前に協議し、日本に「拒否権」があると説明したが、交渉相手のラトニック商務長官は「大統領に完全な裁量がある」と述べている。つまり、80兆円はトランプ大統領が自由に使えるカネなのだ。
さらに、それをトランプ大統領は3年後の退任までに使い切ろうとするだろう。
もともとアメリカ政府が進めようとしていた経済対策や産業支援の投資案件に対し日本の80兆円分から出資要請された場合、表向きは拒否しづらい。だがそれによって“浮いた”カネをトランプ大統領“肝煎りの投資先”――たとえば「ガザの中東リビエラ化」「パナマ運河買収」「グリーンランド買収」などに注ぎ込まれたとしても、日本は何の文句も言えないことになる。
あるいは、最低賃金の引き上げ。石破首相は、今年度の最低賃金引き上げで国の審議会が示す目安を超える額の引き上げを行なった都道府県には補助金などで支援すると約束した。結果、最低賃金は全都道府県で時給1000円を突破した。
しかし、最低賃金の引き上げで国が都道府県に補助金を出すというのは、単なるバラまきでしかなく、悪しき前例を作ってしまった。
新総裁が首相に就任したら、こうした「負の置き土産」の“後始末”をしなければならない。