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元航空自衛隊パイロットが明かす“トップガンの苦労” 「出勤時には必ず笑顔で家を出る」不文律も

小学生時代、地元長崎市内

小学生時代、地元長崎市内

民間の航空会社に転じなかった理由

 自衛隊パイロットには、「出勤時には必ず笑顔で家を出る」という不文律がある。それが家族との最後の別れになるかもしれないからだ。朝長さんも訓練中、「あわや」の事態に直面したことがあった。

「訓練では自衛隊機同士が敵と味方に分かれ、模擬空中戦を行なうことがあります。互いに極限の状況下に置かれており、死角に入った僚機と『あわや衝突』というアクシデントがありました。私は着陸後に録画の映像を見て知りましたが、その光景を見ていた(模擬)敵機のパイロットは、最悪の事態を覚悟して思わず目を覆ったそうです」

 金銭的な苦労もあった。

「国家公務員ゆえ仕方のないことですが、2~5年スパンの異動のたびに、引っ越しで相当額の持ち出しが生じました。当時は引っ越し費用も十分に手当てされず、退去時は、畳や壁紙も自費で修繕しなければならない。異動のたびにお金がかかるのが悩ましい問題でしたね(苦笑)」

 過酷な任務に就く戦闘機パイロットは、40歳前後で退くのが一般的。朝長さんはそれを大きく超える46歳まで「トップガン」として日本の空を護り続けた。40代前半で、長年連れ添った夫人と離婚。だが、2人の娘との関係は今でも良好だ。現役最後のラストフライトには、初孫を連れた娘たちの姿があった。

「自衛隊パイロットには民間の航空会社に転じる人もいましたが、私はいっさい考えたことはありませんでした。飛行機やパイロットに強い憧れを持って航空学生に入隊したわけでもありませんし、戦闘機パイロットとしてやりきったという自負もあるので、現在は空を飛ぶことへの未練はありません。他の自衛隊パイロットから見れば、異質というか“変わり者”かもしれませんね(笑)」

 退職後は焼肉店で修行しながら、念願だったバーの開店準備を進めている朝長さん。9月にオープンする予定のバーの店名は「Time SUN」。朝長さんの現役時代のTACネーム(戦闘機パイロットに与えられる愛称)「Time(タイム)」と、燦々と輝く太陽にちなんで名づけた。

「少し気の早い話ですが、店が軌道に乗ったら、より大きな店を構えてみたい。いずれはVRのフライトシミュレーターを導入して、お客さんに操縦体験をしてもらうのも面白いかなと思っています」

 元「和製トップガン」が、新しい夢に向かい羽ばたき始めた――。

(了。前編から読む

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