総額4兆円超を支出してもUSスチール買収計画の貫徹を目指す橋本英二会長兼CEOの”勝算”とは(AFP=時事)
トランプ大統領が、日本製鉄によるUSスチール買収計画の最終判断をくだす期限である6月5日が迫っている。当初は一貫して計画に否定的だったトランプ氏が、ここにきて姿勢を変え始めたのは、日鉄が当初計画と同額となる2兆円の追加投資の意向を示したからだ。日鉄が“倍額”の支出をしてまで買収計画に挑む理由とは。ノンフィクション作家の広野真嗣氏がレポートする。
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当初の計画ではUSスチール買収のために投じる資金を2兆円としていた日鉄だが、5月20日には2兆円の追加投資する計画が報じられ、これがトランプ大統領の翻意を促したとみられる。
バイデン前政権下でじりじり積み増した追加投資をここにきてさらに一気に引き上げ、当初の2倍、計4兆円の資金を投じる決断を下したかたちだ。
日鉄の会長兼CEOの橋本英二氏は、なぜ、そこまで「米国市場」にこだわるのか。
その理由としてしばしば新聞に書かれるのは、高級鋼板の需要がある市場だからという点だ。だが、それだけではない。もう一つの鍵、カーボンニュートラルの視点も見逃せない。
日本の鉄鋼業は、国内産業界の4割を占めると言われる、最大の二酸化炭素(CO2)排出産業だ。原因は、製鉄法にある。日刊市況通信元編集長の冨高幸雄氏(スチールストーリーJAPAN主宰)が解説する。
「高炉は、コークスを熱源であると同時に還元剤として用いることで、鉄鉱石に含まれる酸素を取り除き、銑鉄を取り出す。その過程で大量のCO2を排出します。その上、その前工程である鉄鉱石の採掘・鉄鉱石の外洋輸送といった段階や、後工程である製鋼のプロセスでも、大量のCO2を排出する。このため高炉は、国際金融界から、資産価値が将来的に大幅に低下する“座礁資産”として名指しされています」