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大前研一「ビジネス新大陸」の歩き方

蜜月だったマスク氏との公開バトル、二転三転する関税政策…「TACO」と揶揄されるトランプ大統領の“限界と終焉”が露見し始めた 大前研一氏は「日本は静観すればいい」と指摘

「いつもビビってやめる」トランプ

 たとえば、アップルはトランプ大統領にiPhoneをアメリカで生産するように要求されているが、それに抵抗してきた。不可能だとわかっているからだ。

 アップルはトランプ大統領の中国に対する高関税政策を避けるため、アメリカ向けiPhoneの生産をインドに移し、直近では月300万~400万台製造したと報じられている。

 だが、この数字は眉唾ものだ。なぜなら、かつてインドのIT企業と合弁事業を行なっていた私の経験では、インドは大量生産が非常に苦手な国だからである。スマホの最終組立工程は超微細な部品の組み付けに熟練した人の手が必要だが、それをこなせるインド人を中国のように何十万人も集めるのは至難の業であり、インドでiPhoneを月300万台以上も作れるインフラを短期間のうちに構築するのは無理だと思う。

 ましてや、失業率が約4%で高賃金のアメリカでiPhoneを生産するとなれば、それを組み立てられる十万人単位の労働力を確保することなどできるはずがない。もしできたとしても製造コストが跳ね上がってアメリカではiPhoneの価格が高騰するだろう。

 実際、アップルがアメリカに生産拠点を設けた場合、アメリカ国内での販売価格を現在の約1000ドル(約14万5000円)から2倍の約2000ドル(約29万円)に引き上げる必要があり、3500ドル(約50万円)を超えるという試算もある。それを負担するのは、ほかでもないアメリカ国民なのだ。

 そもそもこのトランプ関税は、経済に無知な人間の妄動に過ぎない。日本では、与野党が揃って「国難」だと騒いでいるが、その認識は間違いだ。トランプ大統領は「貿易不均衡」を目の敵にしているが、基軸通貨を持つアメリカはいくらでもドルを刷って世界から最も安くて良いものを輸入できる。にもかかわらず、その逆を行ってアメリカの物価を引き上げているのが、トランプ関税なのである。

 最近はトランプ大統領を揶揄する「TACO」(Trump Always Chickens Out=トランプはいつもビビってやめる)が話題になっている。輸入品に高関税を課すとしながら、株価や米国債の価格が下がるとすぐに中止したり延期したりするなど、二転三転する関税政策を皮肉る造語だ。

 それを記者に質問されたトランプ大統領は「そんなの聞いたことない」とムカつきながら答えたそうだが、現に関税も他の政策も派手にぶち上げながら、外国からのクレームや国内経済への悪影響が出るたびに延期・修正を繰り返している。

 いまやトランプ大統領は限界が明らかになり、終焉が見えたと思う。支持率も5月の47~48%から6月は40%前後に低下。「王」はますます失墜するだろう。

 日本は、1970年代から1990年代まで続いた日米貿易摩擦で高関税を課されても、しぶとく生き延びてきた。ならばトランプ関税にも国難だの国益だのと慌てず騒がず、高みの見物を決め込んで静観していればよいのである。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『ゲームチェンジ トランプ2.0の世界と日本の戦い方』(プレジデント社)など著書多数。

※週刊ポスト2025年7月18・25日号

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