朝起きてすぐ、スマホに手を伸びてしまう人も多いだろうが…(イメージ)
一日中タスクをこなしているのに、なぜか「何もできなかった」と感じる。メールに返信し、会議に出て、資料を作る。確かに忙しいはずなのに、充実感がない──。作業療法士であり脳の仕組みの専門家・菅原洋平氏は、この状態を「多忙感」と名づけている。やることが実際に多い「多忙」とは違い、やることが多いと「感じてしまう」状態だ。多忙感に苛まれると、集中力も判断力も落ち、仕事のパフォーマンスも低下してしまう。では、どうすれば多忙感から抜け出せるのか。菅原氏の著書『多忙感』を一部抜粋・再構成して、多忙感の対極にある「充足感」を手に入れる方法を解説する。【第2回。第1回から読む】
「充足感」を手に入れる
多忙感の対極にあるのが「充足感」です。充足感とは、「自分の意思で、意味を感じられる行為をやれた」という手応えです。
たとえば私は現在、豪雪地帯の森の中に住んでいます。
冬の朝は、4時30分に起き、薪ストーブの灰を集めて外に捨てに行き、焚きつけの薪に着火し、火が上がったら新聞を取りに行くためにポストまでの雪をかき、一旦家に戻ってメインとなる薪をストーブにくべて温度を上げる。
今度は車までの雪をかき、エンジンをかけて車に積もった雪を溶かしながら雪をかく。30分経ったらようやく、アイロンがけや朝食の支度、家族を起こして布団の片付けなどに取り掛かる。朝食の準備ができたら外に出て、車が出られるように入り口の雪をかく。
この生活、多忙だと思われるでしょうか?「タスクの数=多忙」なら、確かに多忙な生活をしていますが、私自身が実際に多忙と感じるかと問われたら、「そうでもない」と答えます。それはなぜかと言うと、これらの作業が「生きるために必要だ」という実感があるからです。
これが、たとえば出張中の朝だとしたらどうでしょう。出張している場合、私は宿泊しているホテルで目を覚まし行動を開始します。朝4時30分に目覚めたら、デスクのパソコンを立ち上げる。身支度をしてメールをチェックする。夜のうちに送られてきていたいくつかのメールの中から、資料が添付されたものを見つけて、ダウンロードしてチェックを始める。朝食の時間が迫ってきたら、再開しやすいところまで作業を進めて保存する。朝食会場が混んでしまうので、急いで会場に行く。
起きて着替えて朝食を食べに行く。やっていることは、たったこれだけなのに、気持ちは焦り、「忙しい」と感じます。
このように、同じ人間が、同じ時間を使って作業をしているのに、感じる「忙しさ」はまったく違う。つまり、行為に「意味」を感じられれば、多忙感は生まれないということです。豪雪地帯の朝が多忙感を生まないのは、まさにこの「意味を感じられる行為」で満ちているからなのです。
