小型食品スーパーが“鉱脈”に(イラスト/井川泰年)
首都圏での小型スーパー出店が増えている。イオンの「まいばすけっと」は関東での出店拡大を目指し、九州を地盤に展開していた「トライアルGO」も昨年から都内に進出している。こうした小型スーパーの急拡大が、“小売2強”と言われた、セブン&アイHDとイオンの明暗を分けているという。経営コンサルタントの大前研一氏が激変する小売市場の現状を解説する。
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首都圏の小型スーパー戦争が熾烈になっている。その発端となったのは「トライアルGO」の進出だ。
「トライアルGO」は、九州を基盤にディスカウントストアを運営する「トライアルHD(ホールディングス)」が展開しているコンビニ業態の小型スーパーである。同社は昨年7月、首都圏の駅前を中心に245店舗を展開する総合スーパー大手の「西友」を約3800億円で買収した。
買収額が当時の自社の時価総額(約2800億円)を1000億円も上回っていたことで話題を集め、売上高は西友との合算で約1兆3000億円に達する小売業界第8位の巨大チェーンになった。
トライアルの強みはDX(デジタルトランスフォーメーション)やAI(人工知能)を活用したITシステムだ。もともと同社は小売店向けPOS(販売時点情報管理)システムなどの開発企業で、その後にディスカウントストアをオープンさせてITを駆使した小売業の「ムダ・ムラ・ムリ」の解消に取り組んでいる。つまり、他の小売企業のITシステム導入とは順序が逆なのだ。
それゆえ「トライアルGO」には他の小売企業にないシステムがいくつもある。たとえば「電子棚札」を用いた自動値下げ。バーコード情報にある各商品の賞味期限から計算し、時間に応じて値下げを実施する。値下げは商品の棚札と大きなモニターでお客に知らせ、商品に貼られているシールの表示価格は元のままだが、レジで自動的に値下げされるという仕組みである。
あるいは「顔認証」による決済。同社のアプリ「SU-PAY」をダウンロードし、運転免許証かマイナンバーカードと顔画像を撮影して登録すれば、次回からは自分の顔だけで決済でき、酒類を買う際の年齢確認も不要になるのだ。
トライアルは西友の資材調達力を活かして品揃えを強化するとともに、西友の周りに「トライアルGO」を集中的に出店し、西友のセントラルキッチンで作ったコンビニよりも安い出来立ての弁当や惣菜を売るという。今後はITシステムからスタートしたトライアルが独り勝ちしていく可能性もあるだろう。
それに対し、同じく首都圏で急拡大しているのが、「イオン」の都市型小型食品スーパー「まいばすけっと」だ。東京・神奈川・千葉・埼玉1都3県の徒歩3分以内を商圏として1200店舗以上を展開し、2500店舗への拡大を目指している。「トライアルGO」が西友の資材調達力を活用するのと同様に、「まいばすけっと」もイオンの資材調達力を活かしてコンビニよりも安くて新鮮な弁当や惣菜を提供している。
そもそもイオンは巨大ショッピングセンター(SC)の「イオンモール」が大都市の郊外や地方で強く、そこで休日を一日中過ごす若者たちを指す「イオニスト」という造語も生まれた。
しかもイオンは昨年、傘下のドラッグストア「ウエルシアHD」が「ツルハHD」と経営統合して売上高2兆3000億円超の業界最大規模となり、盤石の強さを手に入れた。このところドラッグストアは食品の販売を拡大しているが、薬は利益率が高いので、その儲けを食品の値引きに回せば、同じ商品をコンビニよりも安く売ることができる。
ほかにもイオンの傘下には、コンビニ「ミニストップ」や食品スーパー「マックスバリュ」「いなげや」などがある。
「ミニストップ」は国内の店舗数(約1800店)で業界4位ながら「セブン-イレブン」「ファミリーマート」「ローソン」の上位3社よりひとケタ少なかったが、「まいばすけっと」の躍進によってイオンは小型食品スーパーという新たな“鉱脈”を見いだし、ウエルシアとツルハの経営統合で一段と重層的な基盤を強化したかたちである。
もともと小売業界は「セブン&アイHD」とイオンが2強で、これまではセブン&アイが長年にわたって首位の座に君臨してきた。しかし、ここに来てセブン&アイが失速し、両社の明暗が分かれている。まだ売上高や営業利益はセブン&アイが上回っているが、株式市場の評価は逆転し、時価総額で昨年初めてイオンがセブン&アイを抜いて首位に立ったのである。
