「捕まること込み」で犯行を繰り返す
地面師詐欺とは、他人の土地の所有者になりすまし、無断で売却して代金をだまし取る犯罪だ。五反田の土地取引で55億5000万円をだまし取られた積水ハウス事件では、土地所有者になりすます「なりすまし役」、その人物を手配する「手配師」、取引全体を仕切る「地面師」など、多くの人間が役割分担していた。だが森氏によれば、主犯格とされたカミンスカスは実は地面師の世界では無名の新参者だったという。地面師界で名の知れた大物たち、内田マイクや土井淑雄は現場には姿を見せず、カミンスカスが前面に立たされていたという構図が浮かび上がる。
判決は内田が懲役12年、土井が懲役11年、カミンスカスも同じく懲役11年と、詐欺罪としては異例の重さだったが、それでも通常の相場より重いだけで、地面師たちは「捕まること込み」で犯行を繰り返しているのが実情だという。
本書では、事件の周辺にいたにもかかわらず逮捕も起訴もされなかった人物にも光が当てられている。カミンスカスを事件に引き込んだとされる「横沢(仮名)」という人物は、結局立件されなかった。森氏は、そこに地面師グループ内部の対立や力学があった可能性をみてとる。
取引の途中で積水ハウス側には、地主本人を装い取引中止を求める内容証明郵便まで届いていた。しかし実際には地主の弟が送ったもので、地面師側はこれをライバルによる妨害工作だと積水ハウス側に思い込ませ、取引継続の判断材料にしてしまったという。事件の背後では、複雑な駆け引きが繰り広げられていたことがわかる。
カミンスカスという人物像について考えるうえで興味深いのが、ノンフィクション作家・水谷竹秀氏の証言だ。