ドラマの地面師像は「やりすぎ」
森氏は、水谷氏と共演したトークイベントで、ドラマで描かれた地面師像と現実との違いにも触れた。Netflixドラマの『地面師たち』では、地面師グループの首領がなりすまし役を次々と殺害する描写があるが、森氏は「やりすぎ」だと一蹴。実際の地面師たちは、殺せば詐欺罪よりも遥かに重い刑罰が下されることを知っているため、逃がす算段こそすれ、手を下すことはない。「詐欺師は長く服役したくないから、そこまではやらない」(森氏)というのが実情だという。
こうした違いに加え、フィクションとノンフィクションの現実の差を考えるうえで興味深いのが、登場人物を実名で報じる森氏の姿勢だ。
前述のイベントで水谷氏から「実名で書くことに怖さはないか」と投げかけられた森氏は「実名が基本。匿名にすべきは被害者やネタ元であって、追及すべき対象を匿名にするのは筋が違う」と即答。今回唯一「横沢」を仮名にしたのも、本人に直接接触できず、取材意思が伝わっていることを確認できなかったためだと明かす。実名報道にはリスクがつきまとうというが、「実名で書けなければやめるくらいの覚悟でないとダメ」と語り、ノンフィクションという仕事への強い矜持をのぞかせる。
『地面師vs.地面師』は、(ドラマの原作・参考文献となった森氏の著書『地面師』の)単なる続編ではない。獄中から届いた「私は無罪です」という訴えを入口に、日本最大級の地面師事件をもう一度掘り起こし、主犯格であるカミンスカスの人物像を問い直す作品になっている。
一人の詐欺師の言葉をどこまで信じられるのかという問いに森氏はどのように向き合ったのか。本書最大の魅力はそこにある。