時間価値まで含めた実質的な手残りを考える
この売却価格について、もう少し考えてみましょう。不動産売却では、「いくらで売れたか」が最もわかりやすい成果です。「3億円で売れた」「想定より1000万円高く売れた」。こうした数字は、売主にとって大きな意味を持つでしょう。しかし、売却価格だけを見ていると、経済的な判断を誤ることがあります。
一度、数字で確認しておきます。仮に、今すぐ3億円で売却できる選択肢と、半年後に3億1000万円で売却できる可能性のある選択肢があるとした場合、単純に後者がよいとは限りません。なぜなら、この半年間には管理費、修繕積立金、固定資産税、住宅ローン金利といった保有コストが発生します。さらには、そのあいだでの価格下落リスクもあり、買主が本当に現れるのかという確度の問題があります。また、住み替え先の価格が上がる可能性、税務上のタイミング、そして売却資金をいますぐ事業や投資に回した場合のリターン。高値を追ううちに買主を逃し、市場環境が悪化して、当初より低い価格で売らざるを得なくなることさえあります。
つまり、売却価格が高いことと、経済的に最も合理的であることは、必ずしも同じではありません。見るべきなのは、グロスの売却価格ではなく、ネットの手残りです。さらに
言えば、時間価値まで含めた実質的な手残りです(図表)。
時間価値と機会損失のタイムライン比較(『都心の高級マンションを最高値で売却する技術』より)
本稿ではこれ以降、この「今すぐ3億円か、半年後の3億1000万円か」という問いを物差しとして使います。いつ、いくらで、どのようなリスクを取り、売却後の資金をどう活用するのか。この全体を見て判断することが必要なのです。
経営者や投資家にとって、時間は重要な資産です。不動産は流動性の低い資産で、売りたいと思っても、すぐに現金化できるとは限りません。販売開始から成約まで数カ月、場合によっては半年から1年以上かかることもあります。そのあいだ、資金は不動産に固定されています。もし、その資金が自由に動かせたなら、別の事業に投資できたかもしれない。金融資産に振り向けられたかもしれない。別の物件を取得するチャンスを逃したかもしれない。これが、機会損失です。
ですから、「いますぐ3億円か、半年後に3億1000万円か」を答えは、売却価格だけで決めることはできない、ということになります。保有コスト、価格下落リスク、買主が現れる確度、再投資機会、資金需要、税務上のタイミング、そして心理的負担。売却価格が高いことは重要ですが、いつ現金化できるかも、同じくらい重要です。特に経営者にとっては、資金をどこに置くかが重要です。不動産に固定するのか、事業に投じるのか、金融資産に移すのか、借入返済に使うのかといった、資本効率の視点が欠かせません。売却価格だけを見ていると、この視点が抜け落ちてしまうのです。
