大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

築地市場跡地の再開発計画 「MICE誘致」の大きな問題点

 アメリカやヨーロッパでも、モーターショーは以前ほど盛り上がらなくなっている。活況を呈しているのはIoT(モノのインターネット)、AI、ゲーム関連の展示会や見本市くらいだ。そういう状況なのに、なぜ今ごろMICEなのか、甚だ疑問である。

 しかも、MICEの誘致合戦は熾烈である。世界的に有名なのはドイツで、フランクフルトやハノーバー、ミュンヘンなど国内各地に巨大な施設がある。アメリカはラスベガスやシカゴ、中国は従来の広州交易会に加えて深?や天津などで開催されている。シンガポールは「マリーナベイ・サンズ」やセントーサ島が国際会議などで人気を集めているし、台湾も台北の南港に大規模な施設(展覧館)を建設してMICE誘致に力を入れている。

 それらに対抗する場合、約23万平方メートルの築地市場跡地では狭すぎる。たとえば、世界最大規模の建機展「bauma(バウマ)」などが開催されているミュンヘンの会場は展示面積が約61万平方メートルで、築地市場跡地全体の2.5倍もある。ラスベガスの展示会場や会議場などコンベンション施設の総床面積は100万平方メートル以上だ。

 さらに、MICEを誘致するためには、その業界を熟知していて取りまとめられる会社が必要だが、日本にそれができる会社は少ない。新しいホテルができたとしても、宿泊施設は全く足りない。つまり、築地市場跡地にはMICEを成功させるだけのスケールがなく、日本に大規模な誘致の経験やノウハウも乏しく、施設だけ造ってもドイツやラスベガス、中国、シンガポールに競り勝つことはできないと思うのだ。

 さらに、MICEは会議や展示会などが開催されている時は人が大勢集まるが、何も開催されていない時は週末の東京・大手町のように、閑散としたゴーストタウン化してしまう。東京都心に残された最後の広大な土地である築地市場跡地の活用法として、それでよいのか? 私は反対である。

●おおまえ・けんいち/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊は小学館新書『経済を読む力「2020年代」を生き抜く新常識』。ほかに『日本の論点』シリーズ等、著書多数。

※週刊ポスト2020年2月21日号

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