中川淳一郎のビールと仕事がある幸せ

コロナ休業であらためて考える飲食店にとっての「家賃」の重さ

「ごめんね…」と何度も謝罪

 そんな「居場所」維持のために3回の借金依頼に応じました。この「50万円」「70万円」という額から考えると、恐らくこの24平方メートルの狭い店の家賃は25万円前後だったのではないでしょうか。2か月分ないしは3か月分の家賃をなんとか工面することが、彼女にとっては恥を忍んででも優先すべきことだったのです。

 そうして猶予ができた間になんとか売り上げを増やし、店を維持する、ということを考えていたのでしょう。思えばこの店で働く従業員を見たことはありません。人件費をかけないよう毎日彼女が自分で店を回し、時々息子さんが手伝いに来ていました。

 そして2017年、彼女から再び50万円の借金の依頼が来ました。これまでに渡した190万円(内、20万円はあげたつもり)の内、戻ってきたのは50万円だけです。この時、私としては、「彼女の年齢を考えれば、あとは店を畳んで、無理せず年金生活を送ってほしい」という考えだったので、借金の依頼を断りました。彼女は「ごめんね……」と何度も謝罪をしていました。

 すると数日後、息子さんから借金の依頼がメールで届いたのです。これにはさすがに私も激怒しました。「お母さんが謝っているのに、お前は何を不躾なメールをしておるのだ!」と。

 そこで私は、長年通い続けたスナックとの縁を切り、回収できなかった120万円も諦めました。家賃ってものは、ここまで経営者にとっては悲痛なものなのです。恐らくママは、今も私に対して申し訳なく思っていることでしょう。私もあの店の経営状況が良ければ、その後も通っていたと思います。しかし、家賃をたかられるだけになることは目に見えていたので縁を切りました。

 その後、店がどうなったかは知りません。たとえ当座のお金を工面してなんとか存続できていたとしても、今回のコロナ騒動を耐え抜くような余力は残っていなかったと思います。今はあのママが、店を手放して固定費である家賃から解放され、年金で生活を維持できていることを願っています。

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