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宮内義彦氏が振り返る「かんぽの宿」売却騒動 「政商批判は心外」

小泉政権下で宮内氏(左)は「規制改革の旗手」と呼ばれた(時事通信フォト)

小泉政権下で宮内氏(左)は「規制改革の旗手」と呼ばれた(時事通信フォト)

── 一方で政策の変更に関わる立場となった宮内さんには我田引水を目論む「政商」というイメージがついて回る。郵政民営化に伴い、「かんぽの宿」が入札でオリックス不動産に売却される話が出た時は批判を浴び、白紙撤回を余儀なくされました。

宮内:「土地代と建設費に2400億円かけた公的施設を100億円ほどで売るとは何事か」という批判でしたが、政商という呼ばれ方は心外でした。かんぽの宿をビジネスとして成功させるには、購入直後に200億円以上かけて施設をリノベーションする必要があり、それなりにリスクの大きい投資案件でしたから。

 当時、日本郵政社長だった西川善文さん(故人)と私が昵懇だから「出来レースの売却」だったという憶測が飛び交いましたが、実際のところ私と西川さんは当時は疎遠な間柄だったし、決して折り合いがいいとは言えない関係だった。

 今にして思えば、鳩山さん(邦夫・当時の総務相、故人)と西川さんの対立関係(*)が根っこにあったのかもしれません。

【*2005年、小泉純一郎首相に請われて日本郵政社長に就任した西川氏は、三井住友銀行時代の手法で様々な改革案を打ち出すが、小泉氏が首相を退くと批判の声も噴出し始めた。麻生太郎政権下で鳩山邦夫氏が総務大臣に就任すると、2人は激しい攻防を展開。鳩山氏は「かんぽの宿」問題で西川氏に社長辞任を要求したが、麻生首相が西川氏続投を決断。鳩山氏が総務相を辞任することになった】

 私は規制改革会議でオリックスや特定の業界の利益のことを考えたことはない。政治家にしろ官僚にしろ経営者にしろ、自身や業界の利益ではなく国民や消費者の利益を第一に考えないと本当に大きな仕事はできないと考えています。

──10年ほど前には再生可能エネルギービジネス推進派のソフトバンクグループ・孫正義社長が、最近では携帯電話の値下げ問題で楽天の三木谷浩史社長が、政界との太いパイプで自らのビジネスを有利に進めているという理由で「政商」と呼ばれました。

宮内:私は国全体を見たパブリックマインドで規制改革に取り組んできた民間人の最後の世代かもしれません。一方、今の若い経営者や起業家は自社のビジネスの観点から見て「これはおかしい」「ここは変えるべき」と動いている。

 我々の時代とは少しスタンスが違うと感じますが、経営者が既得権益を打破しようと規制改革に向け提言するのは歓迎すべきことですね。批判にはあたらないと思います。

【プロフィール】
宮内義彦(みやうち・よしひこ)/1935年神戸市生まれ。1960年に米ワシントン大学経営学部大学院でMBA取得後、日綿実業(現双日)入社。1964年オリエント・リース(現オリックス)入社。1980年代表取締役社長・グループCEO(最高経営責任者)、2000年代表取締役会長・グループCEO。2014年から現職。政府の総合規制改革会議議長や経済同友会副代表幹事なども務めた。

【聞き手】
河野圭祐(かわの・けいすけ)/1963年、静岡県生まれ。経済誌編集長を経て、2018年4月よりフリーとして活動。流通、食品、ホテル、不動産など幅広く取材。

※週刊ポスト2020年1月15・22日号

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