中川淳一郎のビールと仕事がある幸せ

コロナ対応でも日本と大違い 「アメリカの強さ」はどこから来るのか

アメリカは緊急時にとにかく強い。ビビらない

 ここでは私自身が「海外出羽守」(*ネットスラングで、「○○の国では…」と海外と比較して日本を揶揄する人たち)になっているが、実際、アメリカで過ごした高校時代、教師を含めた周囲の大人から言われたのは「得意分野でお前は才能を発揮しろ」やら「失敗してもそいつを叩くな。彼はチャレンジした」といったことである。あとは、自分の頭で判断できるから、マスクを外すこともできるし、「ワクチン打ったんだから自由にさせろ!」と主張することもできるのではないか。

 そうした土壌があるから、天才的なプログラマーやとんでもないサイエンティスト、画期的発明をするアメリカ人が時々登場するのだろう。私の高校時代の友人のスティーブという男は、数学・物理においては天才的な才能を発揮していた。

 彼は授業中は一切ノートを取らず、試験前にもまったく勉強をしていなかった。それなのに毎度95点ほどの高得点を叩き出すのである。本来、数学は公式を知っていないと解けない、と思われがちだが、彼は公式をまったく知らない。授業も聞いていないし教科書も読まないし、試験勉強もしないからだ。

 しかし、たとえばテストが始まると、アインシュタインの相対性理論「E=mc2」とだけ白紙に書く。そこから問題を読み、この式をじーっと眺める。すると何かが降りてきたのか、そこから自らで公式ないしは解答法を編み出し、その問題を解いてしまうのである。

 彼になぜそんなことが可能なのか聞くとこう言った。

「相対性理論は見事だ。この式さえ覚えていれば、すべての公式は繋がっていく。これをじっと見ておくと、大抵の問題は解ける」

 そんな彼の難点は英語だった。なぜかは分からないのだが「e」と「i」のスペルを間違えるのである。もちろん「see」や「India」などシンプルな単語は間違えないのだが、たとえば「implementation(実装)」といった単語になると最初の「i」は書けるのだが、「implimintateon」のようになってしまうのだ。

 とはいっても、周囲はスティーブの卓越した数学・物理の能力を知っているから「お前はそこを伸ばせばいい」と評価していた。そして彼は数学と物理の州大会で両科目の学校代表となるのである。ちなみにその後は、州トップクラスの大学に入った後、就職はせず、なぜか自宅の地下で地ビールを作り、シカゴに売りに行く生活を始めた。私が社会人になりたての頃会った時に教えてくれた。そして「多分、数学はウマい地ビール造りに役立っている」と言っていた。

 もちろん、人種差別が平然とまかり通り、犯罪も薬物中毒も多いアメリカという国に問題は多いとは思うものの、緊急時にはとにかく強いと感じている。なんといっても「ビビらない」のである。

 もしもアメリカのコロナ被害が日本と同程度だった場合、彼らはどこまでこのウイルスを気にしていただろうか。多分そこまで気にしなかっただろうし、日本みたいに「アメリカがヤバいから日本もヤバいはずだ。気を引き締めず感染対策をし、自粛を徹底しよう!」なんてメンタリティにはならないのではないか。

 この「周囲を見る」「利他的であることを求める」という日本人のマインドが、国の成長を妨げているのではないか。日米のコロナ対応の違いを見て、そんなことを感じている。

【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。

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