大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

バイデン大統領の歴訪日程でも明らかに 韓国に太刀打ちできない日本企業の凋落

 日本でのクアッド首脳会合では4か国が「自由で開かれたインド太平洋」実現に向け、今後5年間で同地域のインフラ整備に500億ドル(約6兆7500億円)以上の支援や投資を目指す方針で合意したが、サムスンは1社でその7倍超の投資をするわけで、スケールが桁違いなのだ。

 他の韓国企業も巨額投資を発表している。たとえば、現代自動車はグループ企業3社で2025年までに63兆ウォン(約6兆6000億円)、ハンファグループは今後5年間で37兆6000億ウォン(約4兆円)、ロッテグループも今後5年間で37兆ウォン(約3兆9000億円)という具合である。「新政権への“ご祝儀”」といった見方もあるが、それができるだけの勢いと余力が韓国企業にはあるのだ。

 一方、日本政策投資銀行の調査によると、日本の大企業(資本金10億円以上)の今年度の国内設備投資計画は、全産業758社で3兆8784億円でしかない。彼我の差は歴然である。

 たとえば半導体については、政府は台湾のTSMCが熊本県に建設する工場に投資額の半分の約4000億円の補助金を出す見通しだ。その工場は隣接地に工場があるソニーグループなどに回路線幅22/28ナノメートルと12/16ナノメートルの半導体を供給するというが、これは10年以上前の旧世代の半導体である。いまや最先端の半導体は1~2ナノメートルに達しようとしているのに、こんなレベルでサムスンに太刀打ちできるはずがない。

 要するに、今の日本の根本的な問題は、多くの日本企業が“進化”できずに落ちぶれていることであり、今回のバイデン大統領の訪韓に政府は危機感を持つべきなのだ。ところが、岸田文雄内閣が決定した「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)2022」には「持続的な経済成長に向けて、官民連携による計画的な重点投資を推進する」といった空虚な文言が並ぶだけである。

 世界で大注目される企業がなくなってしまった日本の凋落が、政府の掛け声で反転することはないだろう。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『大前研一 世界の潮流2022-23スペシャル』(プレジデント社刊)など著書多数。

※週刊ポスト2022年7月8・15日号

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