大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

“終身皇帝”目指す習近平氏に暗雲 ゼロコロナ政策は裏目、不動産・金融バブル崩壊危機

驕れる人も久しからず

 さらに、いま中国経済でくすぶっている大問題が、不動産・金融バブルの崩壊だ。大手不動産会社・恒大集団が経営危機に陥ってデフォルト(債務不履行)となり、河南省と安徽省の地方銀行では取り付け騒ぎが起きた。恒大集団には本社がある広東省の当局が介入に乗り出し、取り付け騒ぎには河南省と安徽省の当局が銀行に代わって顧客に預金を払い戻すなど“応急措置”でごまかしながら問題を先送りしている。だが、バブル崩壊のカウントダウンは確実に続いている。

 中国の不動産・金融バブルの問題は、日本や欧米よりもはるかに深刻だ。経営危機に直面している不動産会社だけでなく、これまでの不動産の値上がりで借り入れ余力ができた人たちは2つ3つと投資して多額の借金を抱えている。地方銀行の多くは、いい加減で信用度が低い。これらをすべて政府が救済しようと思ったら、必要資金は500兆円を超えるのではないかと思う。日本は1990年代に230兆円の公的資金を投入したが、中国の場合、地方政府の3割が財政破綻するという試算もある。

 もし、不動産・金融バブルが崩壊したら、中国共産党の独裁を黙認してきた国民も怒り心頭に発し、全国各地でデモや暴動が続発するだろう。これを習近平は正確に理解しているのか? 私は甚だ疑問であり、この問題に的確な対応ができなければ、3期目に入っても社会の混乱が続き、結局、習近平が責任を取らされる事態になるかもしれない。

 もう1つの波乱要因は、李克強首相だ。来年3月に2期10年の任期を終えて退く予定だが、このところ、習近平が主導してきた「共同富裕」政策に対抗するように、鄧小平が打ち出した「改革開放」路線を強調する動きを見せている。これも習近平3選の不確定要素になりそうだ。

 盤石と見られていた習近平だが、ことほどさように行く手には暗雲が垂れ込めている。ゼロコロナもバブル対策も重力に逆らうようなものであり、平清盛が沈む夕日を金の扇で扇いで呼び戻したという伝説を想起させる。だが、「驕れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし」(平家物語)。習近平の思惑通りにすんなり進むとは思えないのだ。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『大前研一 世界の潮流2022-23スペシャル』(プレジデント社刊)など著書多数。

※週刊ポスト2022年9月16・23日号

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