大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

“迷走”続ける習近平・国家主席に残された「2つの選択肢」 実現できなければ退陣しかない

最大のキーマン「薄熙来」待望論

 まさに習近平は右に左に“迷走”中なのだが、今後習近平が取るべき選択肢は2つしかないと思う。

 1つは、4~5年前までの経済最優先の中国に戻ることだ。実際、すでにEC最大手のアリババグループや配車サービス大手の滴滴出行(ディディ)への規制を緩和する方針を示している。そして、「BATH」(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)などの大手IT企業にまた稼がせて、その利益を掠め取り、「共同富裕」で国民に分配してガス抜きをすればよい。ただし本来、そのためには法律が必要であり、ロビン・フッドや鼠小僧でもないのに、法的根拠もなく金持ちから奪った金を配るような手法が未来永劫続けられるわけがない。その折り合いをつけられるかどうか。

 もう1つの選択肢は、「戦狼外交」を改め、周囲に脅威を与えない“温厚な中国”になることだ。アメリカと協調しつつロシアから原油や兵器を輸入しているインドのような全方位外交へと転換し、アメリカや日本とも仲良く付き合い、台湾とは「大三通(通信・通航・通商の緩和)」の経済重視で武力統一を放棄する。そういうまろやかな国になって、世界との共存共栄を図るのである。しかし、これも現実問題として中国が180度方針転換するとは考えにくい。

 だが、もし今後取るべき2つの選択肢が実現不可能だとすれば、習近平に残されたオプションは、民衆暴動を受けた退陣しかない。

 その場合、習近平との権力闘争に敗れ、収賄罪などで収監されている薄熙来(元・中央政治局委員兼重慶市党委書記)の復権を望む声が出てくる可能性もある。彼は今も国民の間で人気が高く、中国共産党の“最後の砦”とも言われている。

 台湾では、国民党の蒋万安(初代総統・蒋介石の曾孫)が台北市長になった。来年の総統選にはまだ早いかもしれないが、その追い風を受けて国民党候補が勝つかもしれない。相手が柔軟な薄熙来なら、新たな「国共合作」の可能性もあるだろうし、日本との関係も格段に改善するに違いない。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点 2023~24』(プレジデント社刊)など著書多数。

※週刊ポスト2023年2月24日号

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