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【物流崩壊】政府の「物流革新緊急パッケージ」の付け焼き刃 6割のトラックが「空気を運んでいる」現実をどう受け止めるか

6割のトラックが「空気を運んでいる」異常さ

 外国人運転手を増やすことも検討されているが、右側通行の国の人々は慣れない「左側通行の日本」を避ける傾向にあるとされる。当て込むほど外国人運転手が来日しない可能性があるということだ。
 機械や外国人による代替には限界がある以上、運転手が減ることを織り込んで業界を土台部分から大胆に変えざるを得ないだろう。

 まずは業界の下請け的な立場を改善し、運送会社の経営基盤を強化することだ。それには、「一刻も早く運ぶ」ことを優先する業界の慣行を見直す必要がある。

 トラックがどれだけ荷物を積んで走っているかを示す「積載率」という指標があるが、国土交通省によれば2010~2020年は40%以下の低水準が続いている。行きは満載でも、帰りは荷台が空のまま走るといったことは珍しくないためだ。運転手不足が問題となっているのに、6割のトラックが「空気を運んでいる」というのは異常であろう。

 積載率を高められれば、必要となる運転手数はかなり圧縮できる。運送会社の収益も大きく改善するだろう。経営に余力ができれば人件費の底上げも図れる。

 そのためには、6万3000社以上もある中小の運送会社が過当な競争を繰り返している現状を改善しなければならない。競争から協業へのシフトだ。

協業できる運送システムを構築できるか

 M&Aで巨大な運送会社を設立するのも1つの方法だが、ハードルが高そうである。中小の運送会社が加盟する組合組織を立ち上げるほうが現実的だ。協業できる組合組織がデジタル技術を活用して運送システムを構築するのである。

 組合は協同の配送センターを設け、どこに荷物を運びうるトラックがあるのか情報を一元的に集約する。センターは空で走る無駄が生じないよう効率的に各トラックに仕事を割り振っていくのだ。

 組合は実質的に1つの会社を創設するイメージである。こうすれば中小の運送会社は下請け的な立場から脱し、少なくなる運転手の待遇を改善しながら、個々業務量も減らすことが可能となる。

 トラック企業の協業が進めば、政府の「物流革新緊急パッケージ」にあった「モーダルシフト」も機能しやすくなる。

 JR東日本は「貨物新幹線」の実用化に向けて、実証実験を行った。こうした新しい動きも、各駅で待ち受けるトラック輸送がしっかりしていてこそ効果を増す。

 社会基盤中の基盤である物流が破綻したならば、日本そのものが崩壊する。社会が一丸となって物流崩壊を何とか食い止めなければならない。

(了。前編から読む

【プロフィール】
河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員のほか、厚生労働省や人事院など政府の有識者会議委員も務める。中央大学卒業。主な著書に、ベストセラー『未来の年表』シリーズ(講談社現代新書)のほか、『日本の少子化 百年の迷走』(新潮選書)などがある。

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