一方、利上げすると企業の倒産が増える可能性はある。だが、倒産を抑えようとする政策が日本経済を停滞させてきた面もある。
たとえば、2009年に施行された中小企業金融円滑化法(モラトリアム法)に基づき、金融機関に対して融資の返済猶予や金利減免、返済額の減額などのリスケジュールを申請した中小企業は30万~40万社と推計されている。同法は2013年に終了したが、その後も金融庁が金融機関に実行報告を求めたため、実質的には2019年まで継続した。法的根拠を失って以降も申し込みは500万件を超え、実行率は9割を超えたという。借金をまともに返済できない中小企業が山ほどあるのだ。
しかし、長年の超低金利下でも借金まみれになった経営力のない企業は、倒産しても仕方がないだろう。
今は人手不足が深刻なので、倒産が増えれば人材の流動化も進む。リスケしなければ存続できない“ゾンビ企業”をつぶすのは「世のため人のため」であり、恐れる必要はないのだ。
また、政府は利上げすると国債の利払いが増えて財政破綻のリスクが高くなると言うが、それは承知の上で国債を発行してきたはずである。個人であれ企業であれ、借金の金利が上昇したら返済が苦しくなるのは当たり前で、その条件を受け入れて融資を受ける。政府が勝手に国債をGDPの2倍の1105兆円(2024年度末の残高見込み)も発行しておきながら、今さら利払いが大変になると騒ぐのは無責任極まりない。
そもそも日本の景気がいくら低金利でも良くならないことは、安倍晋三元首相と黒田東彦前日銀総裁が“アベクロバズーカ”で「異次元金融緩和」を2013年から10年間も続けたのに、全く景気は上向かず、経済が長期低迷したことで明らかだ。選挙対策でさらに国債を積み増して野放図に財政赤字を拡大するという愚蒙なことは、金輪際やめてもらいたい。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2025-26』(プレジデント社)、『新版 第4の波』(小学館新書)など著書多数。
※週刊ポスト2025年6月20日号
『新版 第4の波』(小学館親書)